軍事協力強化を確認 パプア問題は棚上げ  ユドヨノ大統領 米国防長官と会談

 ユドヨノ大統領は二十四日、初のアジア歴訪の最初の訪問地としてインドネシアを訪問していた米国のパネッタ国防長官とバリで会談した。インドネシアと米国の協力関係はパプア州の米系鉱山会社フリーポート社の鉱山を中心とした資源権益の確保やインドネシアの人権侵害などをめぐって一進一退を繰り返してきたが、二〇〇一年の米同時多発テロ以降は対テロ協調で一致し、関係改善を進めている。中国の台頭と地域の経済成長を背景に、軍事分野でも米国はアジア太平洋地域での関係強化を進める方針で、今回の訪問では国防長官はパプアでの人権侵害事件への批判を控え、東南アジアを代表する新興国で世界最大のムスリム人口を有するインドネシアとの軍事協力を一層強化していく姿勢を示した。

 会談に出席したディノ・パティ・ジャラル駐米インドネシア大使が地元メディアなどに明らかにしたところによると、同日の大統領とパネッタ国防長官との会談では、中東やアジア太平洋など幅広い地域の情勢について協議。米国が地域安保の枠組みにいかに関与していくかについても話し合ったほか、米国からのF16戦闘機の購入についても意見を交わした。
 ジョコ・スヤント政治・法務・治安担当調整相によると、パネッタ長官は「米国とインドネシアは海洋問題やテロ撲滅などの分野で長い協力関係がある。米国は変わらずインドネシア、ASEAN(東南アジア諸国連合)とともにある」と話したという。
 パネッタ長官は二十三日のインドネシアのプルノモ・ユスギアントロ国防相との会談後、パプアで十九日、分離独立派の集会に治安部隊が介入し、死者が出た事件について、「何よりもまず、われわれはインドネシア政府の分離独立派に対する取り組みを支持する」と明言。スコット・マーシェル駐インドネシア米大使は、米国が権益を持つフリーポート社の鉱山で労組のストで死者が出ていることについて、「われわれはストをやめるよう働き掛けることはない。米国人の保護を求めているだけであり、その点でインドネシア政府は良くやっている」と評価した。
 ジャカルタポスト紙は二十四日付一面でパプアの情勢悪化の責任を追及しない米国に対し、「東ティモールでの人権侵害を理由に武器輸出を取り止めた一九九〇年代のクリントン政権との対応とは大きな隔たりがある」「米国は政治、経済、軍事の各分野でアジア太平洋地域での影響力を強める中国とバランスを取るためにインドネシアなどASEAN諸国と協力せざるを得ない。人権に強い関心を示す姿勢と矛盾している」と論じ、米国の「二枚舌外交」への批判を展開した。
 二〇〇一年の米同時多発テロ後、ブッシュ政権下の米国はアフガニスタン、イラクとの対テロ戦争を中心に中東地域での外交・軍事戦略に注力していたが、二〇〇九年に発足したオバマ政権は、アジア太平洋地域での協力強化に軸足を移す姿勢を示している。
◇米国とインドネシアの協力関係
 1961年 ケネディ大統領がオランダとの西パプア問題で、国連の仲介提案など調停
 1966年9月 インドネシア共産党(PKI)シンパのクーデター未遂とされる9・30事件発生。米中央情報局(CIA)がその後の共産党員粛清に関与したとされる
 1967年 同年制定の外資法に基づき、フリーポート・インドネシア社設立。
 1969年 西パプアを併合、西イリアンジャヤ州に
 1972年 パプア州ティミカでフリーポート社操業開始
 1975年12月 フォード大統領・キッシンジャー国務長官がスハルト大統領と会談。東ティモール侵攻を容認
 1994年11月 クリントン大統領がアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議出席のため訪イ
 1999年9月 東ティモール独立住民投票をめぐる騒乱、国軍が介入。米、東ティモールでの人権侵害を理由にインドネシアへの武器輸出停止を発表
 2001年9月 米同時多発テロ発生。メガワティ大統領が訪米、対テロ戦争への協力を表明
 2001年10月 米、アフガニスタン戦争開始
 2002年8月 フリーポート社敷地内で米国教師ら3人殺害
 2003年3月 米、イラク戦争開始
 2003年10月 ブッシュ大統領が訪イ。対テロ戦争への協力に謝意
 2005年11月 米、インドネシアへの武器禁輸を解除
 2010年11月 オバマ大統領訪イ、包括的パートナーシップを締結

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