支援の幅 広がる 「日本は開発のパートナー」  JICA所長 佐々木篤氏

 近年、急速な発展を遂げているインドネシアで、国際協力機構(JICA)に求められている支援は何か。インドネシア事務所の所長に先月着任した佐々木篤氏(55)に聞いた。

 ―経済成長に合わせ、JICAのインドネシアへの支援はどう変わったか
 インドネシアは、順調に発展してきて、ここ10年間の変化が特に激しい。昔とは、まったく違うと言ってもいいくらい支援の形は変わった。
 昔は開発を進める途上国。日本に技術を教えてほしい、資金もほしい、すべて援助してほしい。それがインドネシアの要請で、日本も出来る限り応えようと努力してきた。
 今は、ともに開発をするパートナーになった。俗に言う「上からの支援」ではなく、インドネシア側が考えたことを基に、日本の得意なところを生かせる分野で、話し合いながら支援していきたい。

 ―円借款についてはどうか
 インドネシアはお金を持っている国になった。政府に資金を供与するという意味での円借款は、資金だけ渡すというなら必ずしも必要でない。日本が持つ技術や知見を生かせる分野であれば、資金とセットの形で支援できる。

 ―今求められるJICAの役割は何か
 日本とインドネシアの昨年の閣僚級会合で、MPA(首都圏投資促進特別地域)の開発を進めることで合意した。今年度はその実施。交通システムもあれば、上下水道もある。
 規模を生かした成長が期待できると同時に、課題が出てきているジャカルタ首都圏。日本企業を含む民間の投資環境を良くすることで、発展を支援する。急激な成長を通じて、中進国から先進国になった日本の経験が生かせるはずだ。

 ―今後のインドネシアの発展の鍵は何か
 成長の成果でもあるが、都市への集中というボトルネックが生じている段階にある。それを克服してこそ、生活水準の向上が図られる。
 日本も公害問題を経験したように、今後は、環境問題も大きな課題になってくるだろう。インドネシアは、もともと森林の減少など、世界の気候変動に大きな影響を与える課題を抱えており、そういった面でも支援していきたい。
 世界の中でこれだけ大きな都市で、下水道が整備されていないのはジャカルタくらいで、衛生面にも影響が出ている。
 交通網は首都中心部での人の流れを円滑にするMRT(都市高速鉄道)が中核。引き続き、中央政府、ジャカルタ特別州政府と協議を継続していく。
 インドネシア側が計画する交通システムのネットワーク化では、運用に高度なノウハウが必要。効率的に運用している国は、世界でそれほど多くない。ネットワークとして整備していくのであれば、日本は協力できる。

 ―民間と協力しての開発はどう考えているか
 インドネシアの発展とともに、日本が協力できる幅は広がった。大企業が参画する大きなプロジェクトも継続する一方で、中小企業ならではの技術と機動性を生かした支援も求められるようになった。
 かつては、大企業が世界戦略で、インドネシアに投資する例が多かったが、近年は中小企業のインドネシア進出が増えてきた。日本の中小企業が持つ技術は世界でも高く、必要とされている。
 中小企業や地方自治体向けのBOP(貧困層向け)ビジネスや、PPP(官民連携)事業への調査費用の拠出をJICAで数年前に始めた。ビジネスとしての進出が、インドネシアの開発にも役に立つのであれば手伝いたい。(田村慎也)

◇ささき・あつし
 1958年生まれ。東京都出身。88〜91年にOECD(経済協力開発機構)の援助政策部局で勤務。OECF(海外経済協力基金、国際協力銀行=JBICの前身)で、93〜95年にインドネシア担当課長、95〜98年にインドネシア次席駐在員を務めた。JBIC発足後の01〜03年もインドネシアを担当した。趣味は水泳。次男はジャカルタ生まれ。

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