【林哲久の為替・経済ウィークリー】 輸入制限は無益 さらなる円安も
インドネシアの貿易収支の中身を見ると、石油・ガス部門、非石油・ガス部門もともに輸出が減少する一方、輸入はともに伸び続けている結果、貿易収支の赤字が昨年来、常態化している。
国内需要が持続的に伸びる経済構造においては、輸入制限は有害無益の政策対応で、非石油・ガス部門の工業製品の輸出振興こそが、経常収支悪化に歯止めをかける唯一の手段である。
一方、インドネシア中銀は最近、外銀支店による外貨資金調達にも規制を強める方針を打ち出してきた。しかし、外貨準備の減少に悩むインドネシア中銀としては、外銀による外貨資金の国内への還流こそ、インドネシアの経済成長を支える命綱であるとの認識が希薄なようだ。経常収支の赤字が加速度的に増え始めている状況下、こうした場当たり的な外資規制がいずれ、ルピアの暴落を引き起こすきっかけとならないか心配される。
さて円相場に目も向けると、黒田新日銀総裁は初めての金融政策決定会合において、金融緩和目標にマネタリーベースの目標を設定するとともに、その目標値を現在の2倍の水準に引き上げるとの明確な方針を示したことで、市場に大きなインパクトを与えることに成功した。
さらに最近の円安の副次効果として、円安が日本の燃料の輸入金額を押し上げた結果、貿易収支の赤字が膨らんでおり、経常収支の赤字化すら常態化させかねない事態となっている。こうしたアグレッシブな金融緩和政策による円安が、短期的に貿易赤字を一層膨らませるという、いわゆるJカーブ効果が顕著となっているが、今後、円安によっても輸出増が起こらないとするならば、現在の円安はさらに長期化することになる。
その場合、当面は1ドル100円を上限とした展開となろうが、黒田新総裁が諸外国からの日銀の政策が通貨戦争を惹起するとの批判にうまく対処できれば、夏場以降、さらなる円安ステージへの展開も想定される。(三菱東京UFJ銀行ジャカルタ支店・林哲久)