【火焔樹】 ガスコンロ
メードがお料理をしながら私に言う。「今度、レバラン(断食明け大祭)で家に帰る時、こんなコンロを買って帰りたい」と。私が使っているコンロは日本の主婦なら誰も見向きもしない、古い二つの炉と使いにくいので使わない魚焼き器がついたものである。
それでも、メードは彼女の田舎ランプンで里山から木を切ってきて、薪を割って土間で火をおこすより、ひねればプロパンガスが出る、私の古いガスコンロに憧れている。彼女のお給料で充分買えるよと言ってあげる。
不思議なことに、どれが冷蔵庫か分からないメードもいた。私の台所は日本にあるようなシステムキッチンでないのに。彼女たちには、缶詰めの開け方から教えてあげる。33年インドネシアにいるが、缶詰めを教えずに開けることができたメードに私は出会ったことがない。
ただ、日本も少し行き過ぎだとよく思う。その最たるものは包装である。頂くお土産のお菓子。まず、小さなお菓子が小さな袋の中に入っていて、それをまたきれいな紙で包んで紐でくくり、それを仕切りのついた箱の中に入れ、その箱を薄い透明のセロファンで包み、進物の紙を巻き、その後ようやく包装紙で包む。そして、最後にまた手提げの紙袋に入れられる。
一方、夫の里のパダンからお土産をもらうと、ピーナッツを甘く固めたものなど、一応切れ目は有るが一つの固まりになったものをビニールに包んであるだけである。でも、こちらも負けずおいしい。メードがたくさんいるので、量が多いのがうれしい。もちろん、値段は十分の一以下だろう。
日本に住んで、不平や不満で一杯になったら、インドネシアに来て、日本がどれほど恵まれた国であるのかを体で感じればいい、と私はいつも思っているのである。(ゲストハウス経営・平井邦子)