変革遂げる社会の素顔紹介 「可能性の大国インドネシア」 朝日新聞前支局長の矢野さん
2007〜10年まで朝日新聞ジャカルタ支局長を務めた矢野英基さん(44、現西部報道センター次長)が、特派員時代の膨大な取材に基づき、インドネシアが置かれた状況や今後の展望などをつづった「可能性の大国インドネシア」(草思社、1700円)を上梓した。経済や政治、宗教をめぐる話題から、汚職、環境、人権問題まで多岐にわたる分野を網羅。政治家ブレーンや評論家、増え続ける中間層、庶民らの声も拾い上げ、「素顔のインドネシア」に迫っている。
矢野さんは「4年近い駐在のうちに、すっかりインドネシアが好きになってしまい、日頃の記事で伝えきれない細かい部分もまとめ、日本の人に提示しようと思った」と経緯を語る。
全6章立ての本書は、近年注目を浴びる力強い経済成長に伴う状況の変化の紹介に始まり、ユドヨノ大統領を軸とした政治状況とその行方、世界最大のムスリム人口を有する国の宗教をめぐる話題、熱帯雨林や汚職問題、開発独裁を推し進めたスハルト政権崩壊以降の民主化10年の歩みなど多岐にわたるテーマに沿って、ジャーナリストの視点から軽快な筆致でインドネシアを紹介。各章には、バティックや先住民の暮らし、華人の歴史などのコラムを織り込み、インドネシアに対する興味をかき立てるような作りになっている。
数字や分析が羅列された経済レポートや、進出にまつわる手続きなどが書かれたノウハウ本とは趣の違った読み物として、現代のインドネシア理解を深めるために役立つ一冊だ。
あとがきで、インドネシアの評価をめぐる議論について「水が半分入ったコップを『半分も入っているのか』と見るのか、『半分しかないのか』と見るのかに似ている」と記した矢野さん。
じゃかるた新聞に対し、「2012年は、中国や韓国との領土問題がクローズアップされ、不幸にも『反日感情』が露呈した。日本企業の中には、こうした国以外にも投資先、進出先を探す必要性に迫られている。インドネシアへの進出熱が高まる中、インドネシアの実情について少しでも深く知ってもらえたらと思う」と話している。(上野太郎、写真も)