たくましく生きる人々 ボゴール県パルン郡 遭遇した観賞魚市場

 取材先で思わぬ〝拾い物〟して嬉しくなることがある。その日は東ジャカルタで伝統楽器、ガムランの取材。帰り道は土地勘をつかもうと遠回りしてボゴール県を回ると、異様な渋滞に巻き込まれた。車から降りて〝足〟で原因を探ると、観賞魚の私設市場が客でごった返している。なぜ? 趣味とビジネスと思惑は様々だが、そこにはコロナ禍の中で生き抜く人々がいた。   

 ボゴール県パルン郡。東ジャカルタから南タンゲランに抜ける途中、車の流れがピタッと止まった。3月に新型コロナウイルスの感染拡大が始まり、久しぶりの本格的な渋滞に出くわしたが、見知らぬ土地を歩くのも悪くない。小雨の中をカメラを手に歩いてみた。
 10月末に始まった長期休暇も終わりに近づき、地元のパサール(伝統市場)が買い物客で賑わっていた。人の流れに沿って進むと、鯉を形取ったモニュメントがある。さらに進むと縦横100メートルほどの狭いエリアに、観賞魚売りが所狭しと軒を並べていた。
 「発端は町おこし。地元の養殖場を生かし、付加価値の高い観賞魚を売る商売が注目され始めたところ、今年に入って新型コロナウイルスがこれに火を付けた」
 「チュパン(ベタ)」。闘魚でもあるので、美しいヒレやウロコを傷つけ合わないよう、1匹ずつ小さなビニール袋に小分けして売る若い露天商がこう説明してくれた。
 経済発展の中で人々が心の癒やしを求めるようになり、観賞魚が存在感を増すという傾向はこれまでもあった。そこに新型コロナで在宅勤務が増える中、自宅でできる趣味の世界を大切にする人が急増している。そういうことらしい。
 売る側からすれば、経済停滞が長期化する中、観賞魚を育てれば生活の糧にもなりうる。観賞魚の世界にも〝ニューノーマル(新たな日常)〟を模索する時代が来ているのかもしれない。
 売れ筋はグラメ(グラミー)、ロハン(ローハン)、コイ(鯉)、チュパン、ゴピ(グッピー)、イカンマス(金魚)など。ピランハ(ピラニア)やレレ(ナマズ)もいた。
 自宅のある地元で養殖したベタを売る40代の店長によると、魚種にもよるがベタの場合は「趣味目的の観賞用」。1匹あたり5万ルピアほどだそうだ。
 一方、立派な水槽を構えた店で話を聞くと、地元産はほとんど扱っておらず、頭のこぶが特徴のローハンをバンドンなどから仕入れているという。1匹35万ルピアとぐっと高価だが、もっと驚いたのはカリマンタンから仕入れたというアロワナ。30センチほどの証明書付きが600万ルピアという。
 「購入者は趣味の人もいるけれど、半分はビジネス目的。転売して一儲けする専門業者たちだ」
 コロナ禍にあってもたくましく生きるインドネシアの人々。その一端を見たような気がした。
 もっとも、新型コロナの感染リスクという意味では、市場は本能的に危険を感じるレベルの密集状態。長居はしなかったが、ベタは水槽や酸素ポンプがなくても飼育ができるそうで、機会があれば無機質な我が家にも迎えてみようか? (長谷川周人、写真も)

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