事業始める出発点に 閉鎖の市場 若者が再生 パサール・サンタ
南ジャカルタ・クバヨラン・バルの伝統市場パサール・サンタは、若者らが最先端の流行を取り入れた「近代的な伝統市場」として注目を集めている。事業を始めたい若者の出発点になっており、廃れる伝統市場再生のモデルケースになると期待される。
市場の3階に上がると、食料品や生活用品が並ぶ一般的な伝統市場の1、2階とは別世界が広がる。経営者が店構えに工夫をこらした雑貨屋やブーツ屋、韓国焼き肉店などのレストランも並ぶ。今時の服装に身を包んだ10〜20代の男女や外国人が行き交う光景は、若者の街クマンのようだ。
アンニャ・スハルディさん(22)は縦横数メートルの店舗でギフト用のネックレスやキャンドルといった雑貨を販売する「'tuk」を営む。売れ筋は「誕生日おめでとう」などと書かれたメッセージカード。一つ4万8千ルピアと決して安くないが、手作りの質感を気に入る人が多いという。
転機は10月。バンドン工科大(ITB)を卒業し、デザイン会社で働いていた時に友人から出店を持ちかけられた。「仕事が嫌いなわけではなかった。でも自由にやって自分で責任を持つ方が、合っている気がした」と脱サラを決めた。
アンニャさんは毎週水〜日曜まで商品を作りながら販売する。「将来は自分のデザイン会社を立ち上げる。この小さな店舗はビジネスキャリアのスタート」
アマンダ・ゴタマさん(26)はジュース屋「JUDAS」の経営者と一般企業社員という二つの顔を持つ。平日の水〜金曜は終業後に店で働く。友人2人とともに店を切り盛りしている。
目玉商品は米国や日本でも話題になっているというコールドプレス(低温圧搾)ジュースだ。ゆっくりと圧力をかけ、絞り出すコールドプレスジュースは通常の絞り方よりも栄養価が高いという。リンゴやパインアップルなどの果物のほか、ホウレンソウなど野菜も混ぜる。原則、砂糖や水は使わないため、質の良い果実を仕入れている。
「インドネシア人はみんな脂っこいものが好きで、まだ健康志向は根付いていない。ジュースで美味しく健康になれることを広めたい」。常に研究を怠らない。今は小麦の若葉「ウィートグラス」を店舗で栽培中。来月からメニューに加える予定だ。
「これがツイッターでこっちがインスタグラムのアカウント。頻繁に写真をアップしています」としっかり宣伝を忘れなかった。
パサール・サンタの3階は2007年に閉鎖されたが、今年になって復活した。若者が集まる秘密は賃料の安さ。経営者の若者が若者を呼び、「近代的な伝統市場」を作っている。
市場内のフードコートでインドネシア料理店を営むアデ・プトリさん(35)は年間400万ルピアで店舗を借りて、腕を磨きながら、自分のレストランを出すため貯金をしている。
300区画ほどあるうち、営業しているのは半分に満たないが、店舗は埋まっており、開業に向け準備中の店が多い。
伝統市場らしく、暑くて暗い。雨が降れば雨漏りもする。それでも店が開店する度に活気は高まりそうだ。 (堀之内健史、写真も)