賃金まだまだ上昇 ルピア安こそ脅威 日系企業の概況を講演0 ジェトロSMEJセミナー
日本貿易振興機構(ジェトロ)ジャカルタ事務所は30日、中小企業(SMEJ)連合会、在インドネシア日本大使館との共催で、中央ジャカルタの日本大使館で「ジェトロSMEJセミナー」を開き、ジェトロ・ジャカルタ事務所の富吉賢一所長がインドネシアに進出している日系企業の現状について講演した。富吉氏は進出企業の中で課題となっている賃金上昇について、他国の水準との比較などから「まだまだ上昇する」と指摘し、安い労働力のみに着目した進出では成功しないと警鐘を鳴らした。一方で、地域内でのインドネシア市場の存在感の大きさは顕著になっており、需要の拡大をとらえる経営戦略が必要との見方を示した。
富吉氏は、ジェトロが昨年10月から11月にかけて、東南アジア諸国や中国、韓国、豪州などアジア太平洋の20カ国に進出している日系企業を対象にした「在アジア・オセアニア日系企業活動実態調査」のデータを基に講演。8106社に回答を依頼し、3819社が有効回答した。
労働組合の影響力増大などを背景に、ジャカルタで今年、最低賃金の44%引き上げが決まるなど、インドネシアでは急激な賃金上昇が続いている。調査では、経営上の問題点として「従業員の賃金上昇」を挙げた企業が中国に次いで82・2%に上った。また調査では今年の賃上げを反映していないことから、富吉氏は「地域で有数の賃上げ率の高い国になった」と振り返った。
一方で製造業の作業員やエンジニア、マネジャーとすべての層で、1人当たりGDP(国内総生産)がインドネシアよりも低いフィリピンの方が月額の基本給が高いことに注目。インドネシアの貧富の差の激しさや給与水準の低さを表しているといい、「まだ(適正水準までの)是正段階にある」と説明。「最低賃金の40%の上昇は急激すぎるが、5〜10%で収まるものではない」と述べ、10〜20%の上昇は続いていくとの見通しを示した。
また、製造原価に占める人件費、材料費の比率の調査結果では、インドネシアは人件費が20カ国中2番目に低い12・6%に過ぎず、材料費の比率が他国に比べて高い。富吉氏は「人件費が上昇しても経営に致命的には響かない」と述べ、輸入で調達する材料が多いことから、「ルピア安の方が怖い」と強調。現在、ルピアの弱含みが続いており、政府・中銀の為替安定策に注目すべきと注意を促した。
「今後の輸出市場として最も重要と考える国」の回答では、「尖閣問題で極端に落ちた」という中国を抜いて、日本に次ぐ2位に浮上し、内需の伸びに強い関心が寄せられていると説明。その上で、「これだけ伸びている国で売り上げが減っている企業は需要をつかみ切れていない。経営戦略を見直す必要がある」と指摘した。
政府や企業が現地調達率の向上へ向けて取り組んでいるが、この5年間では調達率が上昇していない点にも着目。また、消費者向け販売をする企業の中で、富裕層から中間層へ軸足を移そうとしている企業が、インドネシアは他国に比べても顕著に多いと説明した。
毎年恒例となった新春セミナーで、鹿取克章・駐インドネシア日本大使とSMEJの白石康信会長が講演会に先立ってあいさつ。
鹿取大使は安倍晋三首相の訪問などハイレベルな交流が活発化している点に触れ、「今後も皆さんと協力し、重層的な両国関係の構築に努めたい」と強調。白石会長は、1997〜98年の通貨危機と政変を経て生まれたSMEJ発足の経緯について触れ、「両国の友好関係があってこそ、安心して事業を続けられる」と述べ、「オールジャパンの一員としてインドネシアとの交流強化に努めたい」と語った。
セミナーにはSMEJ加盟企業の代表者を中心に約100人が出席した。(関口潤、写真も)