アジア戦略の大拠点に 日本にとってのインドネシア 田原総一朗さんに聞く

 四半世紀以上続いている討論番組「朝まで生テレビ!」の司会者などとして知られる著名ジャーナリストの田原総一朗さん(78)が6〜8日、ジャカルタを訪れ、じゃかるた新聞のインタビューに応じた。日本の政治から外交戦略、原発問題、文化論に至るまで多岐にわたる分野で持論を披露。田原さんは「日本がこれからアジアと関わるときに、インドネシアは大きな拠点となる」との見解を示した。(聞き手・上野太郎)
 
◇田原さんは、今回が3度目のジャカルタ訪問となる。

 ◆田原さん 最初は1977年。当時、文藝春秋(の連載)で1回目は韓国をやったんですよ。朴正煕の時代で独裁だったけど経済が非常に伸びてましてね。「韓国も今に日本に勝って、怖い国になるぞ」というレポートをした。
 次はインドネシア。岸(信介元首相)さんがスカルノさん(初代大統領)と組んで、賠償問題でいろいろなことをやったと。賠償担保の、言うならば癒着の時代からインドネシアが立ち直ろうとしているのを見たいと思った。
 まだインドネシア独立戦争で闘った日本の軍人たちが何人も生きていまして。その人に紹介されるとインドネシアの大臣たちがみんな会ってくれるんですよ。2、3人会いました。日本はアジアにどう関わっていくのかということを取材でやったのが1回目。
 2度目は17年ぐらい前だったと思います、テレビでデヴィさん(スカルノ氏夫人)の取材。スカルノさんの第何夫人かにもおめにかかりました。スカルノさんのお墓も回りまして。
 両方ともホテル・インドネシアに泊まったんですが、当時は一番高い建物だった。今は本当に変わったなあと。ホテル・インドネシアが低く見えて、とってもびっくりしました。

◇近年の世界情勢を踏まえ、日本とASEAN(東南アジア諸国連合)の関係強化が必要と主張する。安倍首相の歴訪も米中関係をにらんだ戦略の一環だという。

 中国とアメリカがASEANの奪い合いをやっている。TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)もアメリカのアジア戦略。中国はASEANプラス3。日本がその中でどう立てばいいのかと。一つは、ASEANといかに仲良くするか。関係を深めることで米中に対する発言力を強められる。今度の安倍さんのASEAN訪問もその思惑だと思います。
 日本の企業はアジアと言えば中国を向いていたが賃金が高くなってきた。(労働)争議も多くなりASEANを向き出した。そこへ尖閣(諸島)の国有問題があって、日中関係が非常に険悪になっている。反日感情が中国で強まっているということが拍車を掛け、日本の企業がASEANへ傾斜していくと思っている。

 
 民主党の3年間が戦略らしい戦略がなかった。例えば日米関係も悪くしたと。それから沖縄の普天間の問題や尖閣の問題。当然安倍さんは2度目の首相だし、2回なるのは吉田(茂)さん以来ですから、彼は当然、数年は首相をできると思っているはずですよ。  
 そのためにやらなきゃいけないことはいっぱいある。まずはデフレからの脱却でしょうね。アメリカと中国の関係は、かつての米ソの冷戦とはまったく違う。武力対武力から、今は経済関係が複雑に絡まっていると。その中で、ASEANは米中にとっても、何より日本にとって重要な拠点になると思っている。
 安倍さんはそこをやろうと。だからこそ第一にASEAN歴訪。財政の断崖の問題で、(米大統領の)オバマさんの閣僚が決まっておらず、訪米が延びたこともあるけど。
 ASEANでは、インドネシアが一番人口が多い。日本に一番好意的ということで、アジアの大きな拠点になるだろうという思いを持っている。GDP(国内総生産)が6%の高度成長で安定していることもありますね。
 二つ目が、日米の同盟関係強化。安全保障と集団的自衛権の問題、TPPの問題、沖縄問題の三つともケリをつけなければいけないと思っているでしょうね。
 三つ目が日中問題。中国が特に南、東シナ海に軍備を拡張している。ここで日本は日米関係を深めるとともにASEANの関係を深めていくことが、対中戦略の中で重要と思っている。

◇「本当は何かを見極めたい」と批判を恐れず、タブーにも切り込む田原さん。小学校5年生の時に終戦を迎え、それまでの常識が180度変わった。その体験が活動の原点。自由な言論空間が必要という気持ちが「朝生」につながった。「客観性はあり得ない。中立である必要もない。けど、公平性は大事」と説く。

 地方講演も多いんですが、必ずディスカッションします。面白かったのは、去年、約400人が参加する北海道の町村会に講演に行ったんですよ。北海道はTPP反対、特に町村会は絶対反対なの。僕はTPP賛成の講演をしてディスカッションした。当然、非難殺到だと思ったら「面白かった」と。
 なぜか。北海道に行く政治家は最初から、「TPP反対!」って言いに行くんですよ。だからね、「なぜやらなきゃいけない」って話を初めて聞いたと。
 もっと言えばね、農協は反対じゃないんですよ。要するにコメは例外アイテムにすればいいんですよ。アメリカだって、いっぱい例外にしたいからね。農業も一時的には損失を受けますが、政府が補償すればいい。(農協は)補償金つり上げを狙っているだけなんですよ。はっきり言えば。
 
 どうも日本もね、ディスカッション怖がってるんですよね。TPPがその一番いい例だと。原発でも事故が起こるまでは反対派をテレビに出さなかった。事故が起きてからは推進派を出さないんですよ。けど推進派が出なきゃ反対派とディスカッションできないだろと。ほんとに原発はどうなのか分かんないじゃないかと。出さなきゃ。
 
 (タブーには)突破する面白みもあるんですよ。昭和天皇が亡くなる時に「自粛」って言葉がはやりました。その自粛ムードの中で、「朝から生テレビ」で、昭和天皇の戦争責任をやったんですよ。
 最初は編成局長が「それだけは勘弁してくれ」と。じゃあ、ソウル五輪のすぐ後だったので、「オリンピックと日本人」でやろうと。それには大賛成。「だけど、深夜でしょ。あなたはきっと観てないよね。生だから、途中で変わるかもしれないよ」と。「変えるのか?」って聞くから、「いや、そうは言わないよ」と。「変えてもあなたの責任じゃない」とうすうす変えることを承知でオーケーした。
 で、「オリンピックと日本人」は40分で止めちゃったんですよ。「今日はやっぱり天皇をやろう」と。野村秋介って右翼の男も出したんで、右翼からも文句が来ない。視聴率もやたらに高かった。そうしたらその編成局長が「田原さん、悪いけど、大晦日もこれでやってくれない?」って。

◇AKB48のファンを公言し、生みの親秋元康さんとの対談本の出版も予定している。今回、JKT48の公演も鑑賞、日本からの2人にインタビューもした。

 (インドネシア人ファンも)やっぱり「何とかちゃーん」っていうんですね。「超絶かわいー」「参上」「アンコール」「いくぜー」とか、インドネシアの人が日本語で言ってるんですよ。合いの手もAKBの時と同じ。まったくすごいなあと思いましたね。
 日本の2人も非常に溶け込んでいた。MCでインドネシア語でやりとりしてるんですね。冗談言ったり。これはすごい。2人に聞いたらインドネシアの人はまったく拒否反応なくて、すーっと入れるんだって。やっぱり、インドネシアの若者との一大コミュニケーションの場ですよね。みんなハイタッチでしょ、最後は。
 AKBのコマーシャルにも出たけど、「いい年して秋元康の片棒担いで」なんて言われて。「AKB好きになって何が悪いんだ」と。そんな批判とは闘わなければいけないと思ってるんですよ。
 さらに僕がここで強調したいのは、ASEANでは韓国の文化戦略が非常に成功した。テレビドラマやタレントさんが非常に売れた。それに対してね、日本の文化戦略は非常にお粗末。そういう意味でJKTは一つの奇跡的な成功だと思っている。
 今まで経産省は文化戦略といいながら、実質が伴わなかったんですよね。帰ったら安倍さんにも会うつもりですけど、まずは(経産相の)茂木(敏充)さんに会うので、せっかく成功してるんだから、インドネシア、ASEAN向けの文化戦略にもっと力を入れろと言うつもりです。

日イ関係 の最新記事

関連記事

本日の紙面

JJC

人気連載

天皇皇后両陛下インドネシアご訪問NEW

ぶらり  インドネシアNEW

有料版PDFNEW

「探訪」

トップ インタビュー

モナスにそよぐ風

今日は心の日曜日

インドネシア人記者の目

HALO-HALOフィリピン

別刷り特集

忘れ得ぬ人々

スナン・スナン

お知らせ

JJC理事会

修郎先生の事件簿

これで納得税務相談

不思議インドネシア

おすすめ観光情報

為替経済Weekly