メイド・イン・インドネシア

 新政権への移行まで残すところ半年足らずとなったが、ジョコウィ政権はレイムダックになるどころか、幾つかの政策では更にアクセルを踏もうとしているように見える。輸入規制を軸とした国産化政策もそのひとつだろう。
 輸入規制については2022年の新規制で出てきた商品バランスの枠組みと、その一貫性を欠いた運用により、資本財や中間財を中心に多くの輸入品目が影響を受け、サプライチェーンの混乱を引き起こしてきた。その後も輸入規制の対象品目は拡大、3月に施行された入国者の携行品持ち込み規制とその後の世論からの反発、規制撤廃の動きにより、輸入規制が広く一般市民の関心も呼ぶこととなった。行ったり来たりはあっても、大統領自身が国産品優先の意向をかなり強いトーンで発言するなど、全体としては強い意志を持ってこの政策を進めていこうとしていることが感じられる。
 国産化推進、すなわち輸入代替政策は多くの新興国で優先順位の高い政策として位置付けられてきた(ナショナリズム的な国民感情にも訴えることで、純粋な産業政策を超えて、政治的な利用価値を見出す傾向も見られる)。インドではMake In India政策がモディ政権発足して以来の重要キャンペーンとなってきた。輸出志向型で成長してきた経済が、国内市場の拡大に伴って輸入増加と経常収支の悪化に直面し、輸入代替を志向するに至る、というのがこうした国々が辿ってきたパターンだ。ただ輸入規制先行型で輸入代替を進めようとすると、輸入規制が輸出製品の製造の妨げになったり、国内向けの産業でもサプライチェーンに影響が出たりと、矛盾が露呈しやすい。
 輸入代替政策が失敗する古典的なケースは、その対象が資本財・中間財に広がるにつれて、技術的な難易度や不十分な規模の経済性がボトルネックとなり、生産性が低い国内企業を保護し続けなくてはならなくなることだ。その意味では競争環境の観点からも、政策の影響について語られるべきだろう。
 競争戦略について最近影響力を増している経営学上の学説のひとつに、「レッド・クイーン効果」という考え方がある。基本的には、競争が厳しいほど企業の生存確率が高まる、とする考え方だ(競争の度合いと倒産確率との因果関係の実証研究に基づく)。これだけを聞くと直感に反するかもしれないが、適度な競争環境が切磋琢磨と進化を促し企業の生存力を高める、というように理解すると納得がいくかもしれない。歴史的に競争戦略は競争を避けることで優位になることを想定してきたし、どこの国でも、多くの業界で、高いマーケットシェアを押さえて競争を低減させた企業が高い利益率を誇るというのが一般的なセオリーだ。ただし、企業が中長期的に生き残っていく力に着目すると、競争の排除は業界レベルでも企業レベルでも生存力の減退に繋がる可能性がある。
 インドネシアの大手企業は、その多くが、様々なネットワークやコネクションなどを駆使して寡占に近い状況を作り出すことで事業を拡大してきた面があり、それが故に様々な業界でやや競争排除的な発想が染み付いてしまっていると感じることがある。
 輸入代替政策が、輸入規制による競争排除という性質を強めていけば、逆に中長期的な企業の生存力を削ぐ方向に作用していくかもしれない。国産化政策においては、技術移転や人材の質的向上を着実に進めていくという王道に加えて、適度な競争環境を維持し続けることが重要なピースの一つになるのではないかと考えている。(三菱UFJ銀行ジャカルタ支店長 中島和重)

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