内側の課題に向き合う 大企業から個人まで バンクダナモン 板垣靖士さん
三菱UFJ銀行常務の板垣靖士さんがこのほど、商業銀行大手バンクダナモンの取締役として着任した。2019年中に子会社化する予定の同行の成長戦略を進める。地場の銀行で働くことで「日系企業をはじめとするお客さまが内側で抱える課題に向き合っていきたい。内需を開拓する顧客に目線を合わせていく」と熱意を見せる。
収益ベースでは国内5位のバンクダナモンはシンガポール政府系投資会社テマセク・ホールディングスが7割以上の株式を保有してきた。三菱UFJは17年にダナモンを買収する方針を表明、これまでに20億ドル以上の資金を投じて、出資比率を40%に引き上げてきた。19年中に73・8%以上に比率を高め、子会社化することを目指す。外資による出資を40%までに制限している政府との長期的な交渉の上で進めている。
板垣さんは「三菱UFJでは、大型の融資やクロスボーダーの金融でお客さまを支えてきた。しかし、本当にお客さまが悩んでいるのは、どういうパートナーと組み、製品を販売し、債権をどのように回収するのかなどの内側の課題についてだった」と話す。日本企業の顧客や下請け会社などの資金需要に、総合的に応える体制の構築を図る。
ダナモンは中堅・中小企業から個人までを相手にしたビジネスを広く展開。デジタル化へ積極的に投資してきた。預金や決済、トレード・ファイナンスといったトランザクション・バンキングにも強く、大企業の下請け向けの融資実績も豊富だ。経済成長に伴い海外展開を図るダナモンの顧客には三菱UFJの融資、サポートも提供できる。
子会社アディラ・ファイナンスはオートローン業界2位。保険業アスランシ・アディラ・ディナミカも市場で存在感を示している。
■とことん語り合い
三菱UFJは13年からの5年間で、東南アジア諸国連合(ASEAN)のパートナーとの連携を具現化していった。ベトナムやタイ、フィリピンの銀行への出資、買収が続く中で、板垣さんはシンガポールのアジア・オセアニア本部の組織づくりにも奮闘した。
これまでの出資・買収先銀行の筆頭株主はベトナムでは政府、タイでは米系多国籍企業、フィリピンでは個人、とばらばらだった。
信頼を獲得するための心構えを聞くと、「ロングターム。急いではいけない。オーナーにとっては自分が生涯かけて育ててきた銀行だったりする。自分が担当している1~2年の間に結果を出そうとしたら、相手にはそれが分かってしまう」と語る。
フィリピンでは国内の上位10行すべてを訪ねた。最終的に出資したセキュリティバンクでは「最初は出資の必要がないと言われたが、何回も会って国や経済、銀行像について語っていくうちに少しずつ心を開いてくれた」と笑う。
ダナモンに出向し、会議でペーパーレスを徹底している企業文化には新鮮な驚きを感じた。「三菱UFJも学ぶことが多い」と日本とASEANネットワークで知見を生かし合う姿勢だ。
板垣さんの初めての海外旅行先は、奇しくもジョクジャカルタ。通っていた大学があった京都市と姉妹都市提携をしていた縁で訪問し、文化交流や観光を楽しんだ思い出ある土地だ。これからの国内旅行も楽しみにする。
国営企業や財閥、インフラ。ジャカルタ支店を置いてきた50年の歴史の中で、重要な分野にはなんだって融資で関わってきた三菱UFJ銀行。その中で開拓が難しかった、個人・中小企業向け分野の事業をダナモンとの二人三脚で進めていく。(平野慧、写真も)
いたがき・やすし
1987年京都大学法学部卒業後、東京銀行(三菱UFJの前身)入行。大阪やニューヨーク、ロンドンなどで勤務、2008年のリーマンショック後には米大手投資銀行モルガン・スタンレーへの投資戦略業務を担当した。13~15年にはシンガポールに赴任し、アジア・オセアニア地域戦略を統括。国際部門副部門長などを経て現職。大阪府出身で54歳。インドネシアに来てゴルフの練習を始めた。