【貿易風】ジョクジャ再訪 (2018年03月26日)

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 十数年ぶりにジョクジャカルタのイマム・アジズを訪ねた。彼は最大のイスラム団体ナフダトゥール・ウラマ(NU)の活動家である。
 1993年に、NU傘下の学生運動の仲間と「イスラムと社会研究機関」(LKiS)という非政府組織(NGO)を結成した。LKiSは、革新的な宗教解釈や人権運動の拠点となった。
 98年の民主化後、イマムはライフワークともいえる活動を始めた。65年の共産党員虐殺事件の被害者との和解や彼らの社会復帰である。
 「穏健派」といわれるNUだが、東ジャワの虐殺に深く関わっていたことが知られている。地主であったNUの宗教指導者と農地解放を目指す共産党との間には、経済的な対立構造があった。
 イマムらは、NUの下部組織も巻き込みつつ、被害者家族と継続的な交流、聞き取り調査、ドキュメンタリー映画の制作などを行ってきた。
 他方、加害者側のNUの責任追及は避け、和解と社会復帰を優先させた。中央政治の対立に巻き込まれ、国軍に動員されたNUもまた被害者である、との立場をとっている。
 2010年にはイマムはNU中央執行部の役員に選ばれた。NU内でも反発の多い活動を続けてきた彼の役員就任は画期的であった。
 民主化後のより開かれた言論空間のなかで、65年の事件について議論される機会も増えた。
 歴史的人権問題の解決を公約に掲げたジョコウィ政権の誕生は、さらに期待を高めた。16年4月には、政府が主催する真相究明のためのシンポジウムが開かれた。大統領が歴史的な謝罪をするのではないかとの観測もあった。
 しかし反動も大きかった。ネット上では、「ジョコウィは元共産党員」といったフェイクニュースが繰り返され、格好の攻撃材料になっている。
 19年の大統領選まで、この問題に前向きな解決が提示されることは、政治的にまずありえないだろう。
 それでも、イマムはこの問題にそれほど悲観的ではないようだった。NU内はもう大丈夫だと繰り返した。これまでの活動を通した実感だろう。
 目の前の事象ばかりに心を奪われず、時代の流れを見極めていきたい。外見はずいぶん年を取ったが、ぶれないイマムを再訪して思ったことである。(見市建=早稲田大学大学院アジア太平洋研究科准教授)
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 2016年4月から月1回連載してきた「貿易風」は今回で終了します。ご愛読ありがとうございました。

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