中村氏に文化功労賞 イスラム研究を評価 教育文化省日本人研究者初
教育文化省は、インドネシアのイスラム研究者である中村光男千葉大学名誉教授(83)に文化功労賞を授与することを決めた。文化の相互理解の発展に寄与したことが授賞理由。同賞は日本の文化勲章に当たる。日本人研究者が受賞するのは初めて。経済・技術分野が中心になっていた同国の日本への評価が文化交流面に広がってきたことを示すものとも言える。
教育文化省によると、中村名誉教授の表彰理由は、インドネシアのイスラム社会の近代化に大きな役割を果たしたムハマディヤの研究に生涯の半生をささげた▽1980年代からインドネシア最有力大学の一つであるガジャマダ大学(ジョクジャカルタ市)と千葉大学の留学生交流を開始するなど長期にわたり両国の文化・学術交流の促進に貢献した▽イスラム教、仏教といった日本とインドネシアの異なる文化や宗教間の相互理解の深化に力を尽くした――など。
文化功労賞は、国家に貢献した同国の学者や芸術家など文化活動で顕著な実績を残した人々を主な対象にしている。インドネシア人のほか、外国人に対する表彰枠があり、中村名誉教授は、インドネシア東部地方の研究などで実績を残したオーストラリア人学者と東南アジアの歴史研究などを進めた英国人学者の2人と並んで授賞対象となった。近く教育文化省が受賞者を正式発表、表彰式は9月下旬にジャカルタで行われる。
中村名誉教授は60年、東大文学部を卒業し、米国のインドネシア研究のメッカともいわれるコーネル大学に留学、インドネシアのイスラム社会の近代化の研究を始めた。保守的なイスラム社会を代表するナフダトゥール・ウラマ(NU)に対しイスラム社会近代化を目指す勢力であるムハマディヤに着目、日本でもほとんど研究実績のなかったインドネシアのイスラム社会の研究、紹介に取り組んだ。
この間、第3代インドネシア大統領になったアブドゥルラフマン・ワヒドNU議長や、イスラム界の理論的指導者として知られ、スハルト長期政権退陣に大きな役割を果たしたヌルホリス・マジッド師、民主化に転じた政界でイスラム界を代表したムハマディヤのアミン・ライス師ら同国イスラム界の最有力指導者たちと親交を結んだ。
イスラム界の代表的指導者との交流ばかりでなく、インドネシアの教育界でも大きな役割を果たしているプサントレン(イスラム寄宿学校)やイスラム系大学の教師の日本招へい活動を支えるなど、日本にインドネシアのイスラム界を紹介する際にも大きな役割を果たした。インドネシア政府としてもこのような幅広い実績を評価、今回、文化功労者として中村名誉教授に対する国家表彰に踏み切ったと見られている。
望外の喜び
受賞について中村名誉教授は「(今回同時受賞する)国連大学学長を務めたスジャトモコ博士やインドネシアの黒田清輝とも言われる近代画家の巨匠ドゥラー画伯と並んで表彰を受けることは望外の喜びです。これからも両国の文化交流、相互理解の進展にお役に立てればと願っています」と話している。(小牧利寿)
◇ なかむら・みつお 1933年生まれ。千葉大学名誉教授。東京大大学院修士。コーネル大学大学院博士。文化人類学専攻。インドネシアを中心に東南アジアのイスラム社会運動のフィールドワーク・研究を続けている。