アホック氏 禁錮2年 宗教冒とく罪を認定 北ジャカルタ地裁 即日控訴も収監

 イスラムの聖典コーランを侮辱する発言をしたとして、宗教冒とく罪など刑法違反に問われたキリスト教徒のアホック・ジャカルタ特別州知事(50)に対し、北ジャカルタ地裁は9日、禁錮2年を言い渡した。禁錮1年、執行猶予2年の求刑を上回り、即時収監を命じる重い判決が下された。アホック氏は即日控訴したが、東ジャカルタのチピナン拘置所に収監された。

 州知事選に再選出馬していたアホック氏は昨年9月、プラウスリブ県の住民を前に「コーランを使って惑わされているから、私に投票できない」などと述べた。この発言の動画がインターネット上で広まるとイスラム団体らが猛反発し、10月以降、大規模な抗議集会が繰り返された。同氏は11月、宗教冒とく(刑法156a条)と公共の場での憎悪表現(同156条)違反で起訴された。
 20回以上に及んだ公判でアホック氏は「宗教を選挙に利用する政治家を批判した」「コーランやイスラム指導者を侮辱する意図はなかった」と無罪を主張。検察側は宗教専門家らを証人に呼び、宗教冒とくの立証を試みた。だが同氏が州知事選の決選投票でムスリムのアニス・バスウェダン候補に敗れた翌日、4月20日の論告求刑では一転、検察側は宗教冒とく罪を適用しなかった。
 判決では宗教冒とく罪が適用された。裁判官は「被告は意図的にコーランに言及した」と認定し、被告の自著にも発言と同様の記述があると強調。失言ではなく、「ムスリムがムスリムの指導者を選ぶ義務」の根拠とされるコーランの章句を批判するのは被告の持論だったと指摘し、「いかなる宗教でも聖典は尊重しなければならない」とした。
 また「被告には罪の意識がなく、ムスリムに不安をもたらし、傷つけた」などと説明し、即時収監を命じた。
 判決を告げられたアホック氏は、納得のいかない表情で弁護団の元へ駆け寄り、額を突き合わせて議論した後、再び着席してマイクを握り、「控訴する」とだけ述べた。
 アホック氏は公判後すぐに護送車で東ジャカルタのチピナン拘置所に移送、収監された。
 この日の法廷には知事の支援者と反知事のイスラム強硬派、大勢の報道陣らが詰めかけ、厳重な警備が敷かれた。傍聴席には判決を聞いて涙する支援者もいた。支援団体の女性、レニー・トビンさん(50)は「(裁判官は)アホックが言ったことではなく、強硬派の言うことばかりに耳を傾けた。不公平な判決だ」と声を詰まらせた。一方、法廷の外では、イスラム強硬派らが「アッラーフ・アクバル(神は偉大なり)」と声を上げて実刑判決を喜び、アホック氏の支援者とにらみ合って緊迫した雰囲気になる場面もあった。
 公判は南ジャカルタの農業省講堂に設けられた北ジャカルタ地裁の法廷で、午前9時ごろから約2時間にわたり行われた。

■「大衆の圧力に屈服」

 人権団体スタラ・インスティテュートは「求刑を上回る異例の判決」「大衆の圧力に屈した」と指摘し、「宗教冒とく罪が誰に対しても、いかなる利害のためにも、弾圧の道具として使われ得ることを裏付けてしまった」と非難する声明を出した。
 同団体によれば宗教冒とく罪が適用された事件は、1965年以降これまでに97件で、うち89件が98年のスハルト政権崩壊以降の民主化時代。
 ジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)大統領は「判決も(アホック氏の)控訴も、法手続きを尊重してほしい」と呼びかけ、「政府は法手続きに介入しない」とあらためて強調した。(木村綾、写真も)

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