【貿易風】アホック敗北の理由
喧騒(けんそう)のジャカルタ州知事選がようやく終了した。
華人でキリスト教徒という二重の少数派であるアホックに対する攻撃が繰り広げられるなか、選挙はインドネシアの寛容さを問うテストだともいわれた。
ただ、直接選挙が導入されて以降過去2度のジャカルタの州知事選を振り返ると、いずれも宗教が争点になってきた。この点で今回の選挙は特殊ではない。
宗教が争点になると、ジャカルタの有権者の行動は比較的読みやすい。15%を占める宗教的少数派は、当然ながらより穏健にみえる候補を支持する。85 %のムスリムのうち3割は、やはり穏健派を支持する。逆にムスリムの約5割は、必ず保守的にみえる方に投票する。浮動票はせいぜい2割ほどである。
まず過去の選挙を振り返ってみよう。2007年の選挙では、勝利したファウジ・ボウォ組が、穏健さを強調した。そしてイスラム系の福祉正義党が推薦した対立候補を「過激」であると印象づけ、少数派の票を固めた。同時に、両候補ともに地元ブタウィ人らしさを強調するなど、浮動票を分けあった。
ジョコウィとアホックが勝利した12年選挙では、ジョコウィ組が少数派の圧倒的支持を得た。再選を目指したファウジは、アホックを攻撃してムスリム票を固める戦略に転換、保守票を得た。しかしムスリムの半分近くはジョコウィ組に投票した。改革への期待が浮動票を呼び込んだ。
14年の大統領選でも首都の投票パターンは12年とほぼ同じで、ジョコウィがプラボウォに勝っている。
今回もアホックは少数派から圧倒的な支持を得た。他方、保守層は当選したアニス・バスウェダンが固めた。肝心の浮動票をアニスに向けたのは、やはり「宗教冒とく」発言に対する抗議活動の効果だった。
これがかねてからのアホックの強引な手法への反感や人工島建設での華人の業者との癒着問題と結びつき、アホックへの批判に説得力を持たせた。
つまり「やはりアホックは傲慢(ごうまん)だ」「華人が政治経済を支配している」といった否定的なイメージが、現職の業績への高い評価を上回った。
さて、宗教的な寛容さは守られるのか。事実上の選挙協力をしたイスラム急進派に対して、アニス新知事がどのような態度をとるのかが鍵になるだろう。(見市建=早稲田大学大学院アジア太平洋研究科准教授)