【サリナ前爆破テロから1年】(下)「生きていくことが大事」 10カ月後に職場復帰
「生きていくことが大事。支援してくれた人たちは神のような存在だと思う」。中央ジャカルタ・サリナデパート前爆破テロから10カ月後の2016年11月4日、爆破の被害にあった警視庁の要人警護担当、デニー・マヒュウさん(49)=南ジャカルタ・マンガライ在住=は、警視庁で事務方の一般スタッフとして、朝から夕方までの勤務で職場復帰した。仕事の傍ら、テロなどの被害者を支援する非政府組織(NGO)が開く集会で、被害体験を伝えている。
デニーさんには妻と2人の子どもがいる。妻の出身地であるカリマンタン島には、親族の家や土地があったが03年に東ジャカルタに転勤した。その後南ジャカルタに転居。西ジャワ州スカブミの国立高校に通う19歳の長男は、3月に大学進学に向け試験に臨む。子どもたちには「健康でいてほしい」と願う。長女はことし、9歳になる。
現在の薬代・通院費は1カ月700万〜800万ルピア。しかし、840万ルピアの月給は、自宅のコス(下宿)の家賃200万ルピア、食費・光熱費などの生活費250万ルピアに消え、残りの400万ルピアでは、満足な治療を受けることができていない。
16年のレバラン(断食月明け大祭)には実家に帰ることがかなわなかった。ことしは治療のための資金の援助を頼みに行く。「頭や脚を回復するためには、(資金が必要なので)帰らなくてはならない」と重い口を開く。
16年末からことし1月にかけて、国家警察はテロ容疑者を次々に逮捕した。テロリズムについてデニーさんは語気を強めて「人間はもともと善い行いをする生き物。それた道を元に戻すように呼びかけていかなければならない」。
テロ発生前、要人車両警護の担当部署にいたつながりから、ジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)大統領に、補償金を拠出してほしいとショートメッセージ(SMS)を送ったが、「大統領は1日2千人からSMSを受け取る。私たち(被害者)が動かないといけない。返答を待っているだけでは変えられない」と前を見据えた。いまだ、返事は届いていない。
■被害者権利ないがしろ
中央ジャカルタの報道評議会館で今月14日、サリナデパート前爆破テロなどの被害者を招き、被害体験を伝える集会を開いたNGOのインドネシア生存者財団(YPI)は、被害者の権利がないがしろにされていると警鐘を鳴らす。
YPIのスチプト・ハリ・ウィボウォ会長は、被害者の権利保護に向け、反テロ法改正案にテロ被害者の特定方法を明記する▽危機的な状態の被害者に対する政府からの医療費保障を規定した条項を設ける▽裁判所を通さずに被害程度の評価を下せる国家機関を通して補償金を支払う――の3点を盛り込むよう国会(DPR)に訴えると明かした。
デニーさんは集会の最後に「国にきちんと補償してほしい。被害状況に応じて、補償額を定めた方が自然で良心的だ。政府が(補償のための)一つのチームを作ってほしい。これがバリ島やサリナなどのテロ被害者みんなの要求です」と訴えた。(中島昭浩、写真も、おわり)