ムスリム圏へ発信 福島県の育児ママ ヒジャブを手作り イでの販売も視野に
育児中の女性たちでヒジャブ(スカーフ)を手作りし、インドネシアなどムスリム圏に発信しようと、福島県の名和淳子さん(41)が挑戦している。子育てを機に退職した女性の社会復帰や、大震災後の県のマイナスイメージ払拭(ふっしょく)にもつなげたいと考えている。12月中旬、視察のため来イし、来年1月には南ジャカルタのモールでテストマーケティングに挑む。
7歳の娘を持つ母親でもある名和さんは、出産や育児をきっかけに約14年続けた仕事を退職。ママ友達が増える中で、キャリアを重ねつつ退職した母親が多いことに気付いた。「もったいないなと思って。育児中の女性が働けるような社会に変えたい、そのための会社を作りたいと思った」。
マレーシアに1年間滞在した大学時代の経験から、ムスリム女性向けのヒジャブ作りを思い立った。縫製業なら自宅でもでき、育児中の女性も働きやすい。
ことし2月には、ムスリムファッションを手掛ける会社「WATASI JAPAN(ワタシ・ジャパン)」を福島県白河市で設立。日本画家が描く桜のデザインなど、和風のヒジャブを製作、販売し始めた。
同社で働く7人前後はいずれも育児中の女性。子育ての経験を生かし、着脱が簡単な「インスタントヒジャブ」や子ども用ヒジャブなど、アイデアを凝らす。
事務所となっている市の起業支援室にミシンを置き、子どもが遊べるスペースも設けた。「先輩お母さんたちもいて、子育て相談の場にもなっている。楽しくやっています」と笑う。
ママ友つながりで、県内に住むインドネシア人女性とも出会った。商品開発に向け、聞き取りを重ねるうちに分かったことがある。モスクがある都市部に比べ、ムスリム人口が少ない地方ではイスラムへの理解は限定的。「ヒジャブをかぶると変な目で見られる」「小学校に着けていくと子どもが嫌がる」など、ムスリム女性のリアルな意見を聞き、製品作りに生かす。
ヒジャブは半年ほど前からオンラインで売り出しているほか、在日インドネシア人に直接販売する。現在の売り上げは月に20枚程度で、主な客層はムスリム圏へのお土産用に買い求める日本人など。まずは国内で販売、将来的にはインドネシアでの販売を目指す。
名和さんはことし、地域の魅力を海外に発信し、地域活性化につなげる人材を育成する「ふるさとグローバルプロデューサー育成支援事業」の研修生に選ばれた。日本企業の業界参入を支援する日本ムスリムファッション協会(東京都渋谷区)が研修受け入れ先となり、活動を支援する。12月中旬には、同協会理事の倉沢愛子・慶応大学名誉教授らと共にジャカルタを視察して回った。
起業の背景には、地元のイメージ回復への思いもある。「海外から見る福島は、(原発の)爆発があり、津波で全部をさらわれた、あの映像のまま。福島から頑張っている姿を見せることで、イメージを変えられるのでは」と話した。(木村綾、写真も)