「ここも崩れるぞ」 アチェ北部地震 余震でパニックに

 「ここも崩れるかもしれないぞ!」。アチェ州北部のピディ・ジャヤ県ムルドゥ市のパサール(伝統市場)。8日午後2時21分、倒壊した建物付近で余震を感じ、周りにいた住民たちはパニックになった。がれきの下敷きになった犠牲者の捜索も難航している。
 アチェ州の州都バンダアチェのイスカンダルムダ空港から、北スマトラ州メダンに向かう幹線道路を通り、約3時間半。ピディ・ジャヤ県に入ると、通り沿いに倒壊したモスクやイスラム寄宿学校(プサントレン)、住宅や店などが続く。道路は亀裂が入っており、運転手に注意喚起するためオレンジの旗が立てられていた。
 同県の中心地ムルドゥ市ではパサールが倒壊した。ショベルカーが入り、がれきの撤去作業を続けているが、8日午後2時21分に余震が発生。強い揺れを感じた住民らは「早く逃げろ!」と叫ぶ。パサールの近くにいた人たちはパニックに陥り、友人や家族らに声をかけ、手を引いたり、オートバイに乗ったりして逃げ出した。
 ムルドゥから車で約20分。国道沿いでは3棟が並んで倒壊していた。海岸からは1キロ以内で、海を臨むことができる。1階部分が押しつぶされたアチェ料理店「カダール・ドゥア」では、住み込みの従業員だったジャフル・グフマンさん(21)が死亡した。
 オーナーのザリさん(43)は店から徒歩5分ほどの自宅で寝ていたところ、強い揺れで目を覚ました。家族6人全員で家から飛び出し車に乗り、山など高い場所を目指した。「上下に激しく揺れた。2004年にアチェを襲った津波を思い出し、とにかく高いところに逃げようと思った」。
 朝日が昇ると真っ先に店へ向かい、ジャフルさんの名前を叫んだ。返事があり、がれきをかきわけて救出したが、病院で亡くなったという。「今はできることをするだけ。片付けが終われば、必ずお金が必要になる」と話した。
 「売れるものを売って責任をとるよ」。厳しい表情で携帯電話で話していたのは「ガダール・ドゥア」の隣にあったミニマート(コンビニ)「スラマット・ジャティ」のオーナー、ムハマド(33)さん。電話先の相手は商品の仕入れ先で、支払いの催促だった。同店は12日に迎えるムハンマド生誕祭に向け、通常より多く商品を仕入れていた。従業員らとがれきを取り除きながら、菓子やペットボトル飲料、たばこなど、まだ売れそうな商品を黙々と回収していた。
 ムハマドさんは「ここで8年間ほどやってきて、この辺りでは一番大きい店の一つになった。店を増やそうと近くに新しい土地も買ってあった」と話す。「今は何も持っていないのと同じ。片づけることしかできない」と肩を落とした。同店の隣にあり倒壊した住宅では3人が死亡した。(毛利春香、写真も)

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