「アホックさん、聞いて」 州庁舎に長蛇の列 休職前に住民直訴
「アホックさん、聞いてください」――アホック・ジャカルタ特別州知事が登庁する毎朝7時半ごろ、州庁舎には知事と直接話したいという住民らが行列をなす。来年2月の知事選を控え、28日から休職するアホック氏が、最後の陳情に訪れた住民一人ずつに応じていく。
休職を4日後に控えた24日朝。いつもは10〜30人ほどの「直訴住民」が、この日は約80人に膨れ上がった。休職する前にアホック知事に会いたい――午前5時半から待っているという人もいた。
「アホック知事と話したい人はこっち。写真を撮りたい人はこっちへ――」。午前8時前になると、警備員が住民を二手に分け、整列させた。直訴に限らず、写真を撮りたい、サインがほしいという「ファン」もいる。
マグダレナさん(75)は知事に宛てた自筆の手紙を持って、孫と一緒に訪れた。「高速道路の建設で、40年間住んでいた家を2年前に取り壊された。いまだに補償金をもらえないんです」。住む場所に困り、今は親戚の家に住んでいるという。
土地問題を抱える住民が多い。土地の権利書や裁判記録など書類の束を手にしたグナワン・ルスリさん(65)は「土地を人に貸したら、勝手に売られていた。裁判を起こしたけど、負けてしまった。不当な判決だ。助けてほしい」と訴えた。
華人でキリスト教徒というマイノリティーの知事への期待もある。東ジャカルタ・プロマスの教会に通うティニ・スピットさん(52)は「アジア大会の準備で、教会が取り壊されることになっている。アホックさんが取り壊しを許可したと聞き、信じられない気持ち。知事本人の口から説明を聞きたい」と求めた。
午前8時。州庁舎に着き、車を降りたアホック知事。降車場から扉までの約8メートルを、列をなす住民と順番に写真を撮り、話をしながら少しずつ進む。住民の訴えには「私の権限でない」「何もできないよ」とバッサリ切り捨てることもある。両脇に携えた2人の秘書に、住民から受け取った手紙や嘆願書を次々渡していく。
通常は10〜数十分で終わるこの光景が1時間近く続き、途中、「会議は先に始めてくれ」と職員に指示した。この日は午前8時から土地収用に関する会議が予定されていた。
直訴に来る住民の多くも、アホック知事と話した後、記念撮影して帰る。直訴を終えたマグダレナさんは「アホックさんは、ルマススン(公営の集合住宅)の部屋を用意すると言ってくれた」と話し、孫の携帯電話で撮ったアホック氏との写真を見つめて満足げな笑みを浮かべた。(木村綾、写真も)