ラマダン中の栄養源 輸入は右肩上がり 「砂漠の果実」クルマ
ラマダン(断食月)の時期、市場に多く出回る「クルマ」(干しナツメヤシ)。主に中東や北アフリカが原産の「砂漠の果実」だが、輸入量は右肩上がりに成長し、ラマダンに欠かせない栄養源としてインドネシアにすっかり定着した。ムスリムの間ではブカ・プアサ(1日の断食明け)に空腹を癒やす定番の食べ物となっている。
海外では「デーツ」と呼ばれるクルマは、干しプルーンや干し柿に似た食感のドライフルーツで、成分の7割が糖分という餡(あん)のような甘さが特徴だ。
主婦のアユ・スリ・ワヒュさんは「クルマはムスリムにとって特別な食べ物」と話す。イスラムでは、預言者ムハンマドが1日の断食を終えた後、クルマを食べて礼拝をしたとの言い伝えがある。
ラマダン中のブカ・プアサに毎日200〜300食を振る舞うバイトゥル・フダ・モスク(中央ジャカルタ・クボンカチャン)では、ムハンマドに習い、日没後、最初にクルマを口にする決まり。モスクを管理するカルト・スウィルヨさん(51)は「まずクルマと牛乳。その後礼拝をして軽食を取り、最後にご飯物を食べる」とブカ・プアサの手順を説明する。
ブカ・プアサの空腹時にクルマを食べることは、実は理にかなっている。鉄分などのミネラル、食物繊維が豊富で、素早くエネルギーに変わるため、試合前に食べるスポーツ選手もいるという。
中央ジャカルタ・タナアバン市場近くのマス・マンシュール通りでは24の路面店がクルマを販売、ブカ・プアサ用に買い求める客らでにぎわいを見せている。
シャリファ・バヌンさん(54)の店には1キロ5万〜45万ルピアの17種類が山積みにされている。アラブ首長国連邦(UAE)、エジプト、イラン、チュニジア、サウジアラビア、アメリカなど産地はさまざま。色も薄いものから濃いものまであり、甘さや粘っこさも異なる。ムハンマドが食べたとされる黒い実「クルマ・アジワ」が最も高級だが「たくさん種類があるから、皆がそれぞれの懐具合に合わせて選べばいいんだよ」と話す。
同店では一年中クルマを取り扱うが、ラマダンの時期には売り上げが5割増しになるという。隣のラングンブディさん(24)の店では6割増。いずれも、普段に比べ25%ほど値上げしている。
■モールで高級品
クルマの輸入はラマダン前にかなり集中している。昨年の中央統計局(BPS)の月別の貿易統計によると、ラマダン(6〜7月)前の4月の輸入量が6005トンと最も多いのに対し、ラマダン後の8月の輸入量はわずか46トンで、約130倍の差があった。
クルマの輸入量は、1998年の9059トンから2014年には3万531トンと、16年で3倍以上に増えた。路面店や伝統市場での量り売りだけでなく、モールやスーパーでは高級志向の箱入り商品が売られ、カフェではクルマを使ったドリンクやデザートを販売するなど広がりを見せている。
農業省によると、現在99%を輸入に頼っているクルマ。需要増に対応するため、雨量の少ないサバナ気候の東ヌサトゥンガラ州で栽培する試みもあるという。(木村綾、写真も)