日系企業にも打撃 値上げにジレンマ ルピア安
急速なルピア安の進行が地元企業、日系を含む外資系企業に打撃を与えている。完成品や原料を輸入に頼る企業はコストの上昇分を値上げの形で転嫁したいが、景気減速の中で値上げすれば需要のさらなる低下を招きかねないジレンマを抱えている。
「現在のルピア水準は自動車部品メーカーの限界を超えている」――トヨタ・モーター・マニュファクチャリング・インドネシア(TMMI)の野波雅裕社長は、不満をあらわにした。
製造業に属する日系企業の多くは、1ドル1万1500〜1万2500ルピアの為替レートでことしの事業計画を作成している。想定レートを上回るルピア安の進行は、ドルや円ベースでの売り上げの減少を意味し、外資系企業には収益を押し下げる要因となる。
同社長は「政府が早く国内需要を喚起する政策を打たなければ、どんどん競争力がなくなる」と懸念する。
日系の家電業界関係者も「大変なことになっているというのが率直な感想」と話す。ルピア安なら輸出を増やせばいい、という声もあるが、「もともと国内向けに作った商品。急に輸出はできない」のが実情で、売値を上げるか、大幅なコスト削減かの選択を迫られている。一部メーカーは家電製品の一部を今月から数パーセント値上げした。
インドネシア・アロマ・オレフィン・プラスチック協会(イナプラス)のファジャール・ブディオノ事務局長は「1ドル1万4500ルピアまでルピア安が進行すれば、(事業)継続は難しい。1万5000ルピアまでいけば倒産する企業が出る」と業界が直面している苦境を地元メディアに語った。
イナプラスによると、多くを輸入に頼る石油化学製品の今年上半期の需要は、自動車向けや飲食品の包装向けなどの不振が響き、前年同期に比べ20%減少した。
飲食料品業界も消費減の影響を受けている。飲食料品製造業者協会(ガプミ)のアディ・ルクマン会長は「(値上げ)したくても据え置くしかない」と話す。自国通貨だけが下落する場合には、価格面での競争力が向上し、輸出増が期待できる。だが、世界的な需要減と他の新興国通貨がそろって下落する今回のような状況では、なかなか輸出増につながらない。ガプミは今年の輸出額の目標を64億ドルから55億ドルに引き下げた。
原料の96%を輸入に頼る製薬業界は値上げに動き出した。インドネシア製薬業者協会によると、加盟各社はすでに製品を3〜5%値上げしたが、さらなる値上げを検討中。医療保険(JKN)向けの薬も10%値上げを社会保障機関(BPJS)に提案した。
小売業界では、コンビニ大手「インドマレット」を運営するインドマルコ・プリスマタマは、今の為替水準が続けば牛乳、洗剤、シャンプー、石けんなどを5%値上げする予定だ。
ホームセンター最大手のエース・ハードウェア・インドネシアを傘下に置くカワン・ラマ・スジャテラ社幹部によると、エース取り扱い商品の8割が輸入で、コスト増の一部を価格に転嫁していく方針。今後は「代用できる家具などの商品は輸入から国産に切り替えていく」と述べた。(堀之内健史、佐藤拓也)