21カ国への派遣停止 家政婦保護で労働省 サウジなど中東が中心
労働省は4日、インドネシア人労働者の保護が十分でないとして、サウジアラビアなど中東を中心とする21カ国・地域への家政婦の派遣を停止すると発表した。劣悪な労働条件や、事件事故に巻き込まれた際の処遇が問題になっていた。アジア太平洋地域の出稼ぎ労働者保護強化も検討する。
派遣を停止する国は、100万人以上が働いているとされるサウジアラビアのほか、アラブ首長国連邦、ヨルダン、クウェート、エジプトなど。情勢の不安定なイエメンや南スーダン、イラク、パキスタンなども対象とした。すでに就労している労働者については、適性な手続きを踏めば契約の延長を認める。
ハニフ・ダギリ労働相は4日、「家政婦として働く出稼ぎ労働者は、人権侵害や労働規範上の問題に巻き込まれることが多い」と指摘。「人間としての尊厳や国家の名声を傷つける場合には、政府は労働者の派遣を停止する」と強調した。
サウジアラビアで先月、元家政婦のインドネシア人死刑囚2人の刑が立て続けに執行されたことも、要因の一つという。家政婦の境遇をめぐっては、雇用主による虐待や賃金未払いが引き金になったとみられる事件がしばしば起きる一方、十分な法的保護が与えられないなど、同情の声が国内で上がっていた。
特にサウジアラビアの場合は、雇用主らにパスポートを預ける身元保証制度が問題視されていた。虐待などを苦に職場を逃げ出した労働者が、パスポートのないまま現地で立ち往生し、不法滞在者として取り締まり対象になる悪循環に陥るケースもあった。
ハニフ労働相によると、中東での平均的な家政婦の収入は月270万〜300万ルピアといい、西ジャワ州ブカシ市などの最低賃金と同じ水準。「家族と離れて外国で暮らすリスクに見合わない」と指摘した。
派遣停止に伴い、従来受け入れ国に吸収されていた労働力が国内にとどまることになるが、労働集約型産業への優遇措置などを講じ、雇用創出や就業支援にも力を入れるという。
労働者派遣保護庁(BNP2TKI)によると、昨年1年間に渡航した出稼ぎ労働者は約42万9900人。職種別では家政婦が最多の約13万人で、介護・ベビーシッター約4万9100人、農園労働者約4万7800人が続く。
派遣先の上位はマレーシア約12万7800人、台湾の約8万2700人、サウジアラビアの約4万4300人、香港約3万5千人など。日本は約2400人で、韓国は約1万1800人、中国は約900人だった。(道下健弘)