プラボウォ氏敗訴 「不正の証拠なし」 憲法裁

 プラボウォ氏(グリンドラ党)が大統領選(7月9日投票)で総選挙委員会(KPU)による組織的不正があったなどとして申し立てた審査で、憲法裁判所は21日、訴えを全面的に退け、ジョコウィ氏の勝利が最終的に確定した。
 ハムダン・ズルファ憲法裁長官は「原告の全ての異議申し立てを退ける。判事9人による合議で決めた」と言い渡した。
 KPUが有権者名簿を改訂し、名簿漏れしていた有権者を足したことをめぐり、プラボウォ側はKPUがジョコウィ候補に投じるための票をねつ造することに加担し、大統領選挙法に反する違法行為と主張したが、判事は証拠不十分と断定。5千投票所の投票プロセスに問題があり、総選挙監視庁による再投票要請が不当に無視されたとの訴えも退けた。
 KPU集計はジョコウィ氏7099万票(53・15%)、プラボウォ氏6257万票(46・85%)だったが、プラボウォ氏側は実際にはジョコウィ氏6643万票(49・75%)、プラボウォ氏6713万票(50・25%)だったと主張。2100万票に問題があり、KPUが組織的不正をはたらかなければプラボウォ氏が当選していたと訴えた。
 これらの主張を立証するため、プラボウォ側は「KPU内での不正」「パプア州、西パプア州、東ジャワ州、中部ジャワ州、ジャカルタ特別州などでの不正」の証拠となる5千ページの文書を提出。パプアなど各地から100人に迫る証人を法廷に立たせた。このため判決文は4390ページに達し、9人の判事が交代で読み終えたのは、開廷から6時間半たった午後9時ごろだった。

▽パプア投票箱を問題視
 プラボウォ側はパプアでの選挙違反疑惑を重視。パプア16県の投票所が国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に認定されたかばん「ノケン」や手織り布の「イカット」を投票箱の代わりに使ったことを問題視した。
 布製のため投票先が露見しやすく秘密投票の原則を侵し、ジョコウィ候補の得票率が100%に達する投票所が多数あったとして再投票を要求していた。判事は地域の風習に合わせたもので、部族間対立を避けるためにも必要な措置だとした。
 他にも、プラボウォ側証人がジョコウィ側による票操作を示唆して「家が壊された」と虚偽の情報が流布した。西パプアでも同様の得票率100%型の組織的不正があると主張したが退けられた。
 同日夜、プラボウォ陣営のタントウィ・ヤフヤ広報はプラボウォ氏、ハッタ氏の代理として「憲法裁の審査結果を認める」と敗北を宣言。今後はプラボウォ氏が大統領選投票後に結成した「メラプティ連合」が国会から政府を監視し、民主主義を守ると話した。ただ民主党や国民信託党(PAN)がジョコウィ氏と連合交渉を進めており、議会多数派の確保は不透明だ。

▽選挙撤退から憲法裁へ
 プラボウォ氏は公式集計結果発表で自身の敗勢が確定的になった先月22日、演説で「KPUによる大統領選のプロセスは問題があり、民主的ではなく、憲法に反する」と主張。KPU本部での最終集計から立会人を引き上げさせ、「大統領選プロセスからの撤退」を息巻いた。プラボウォ氏が落選を受け入れずに、最後の最後で大統領選の正当性自体を認めないことで「ちゃぶ台返し」をしたととれる発言だった。
 だが翌23日、弟のハシム氏が「撤退したと言ったことはない」と翻意のきざしを見せ、25日にはプラボウォ氏がKPUを訴えると一転した。
 大統領選の結果に異議を申し立てる憲法裁審査は史上初めて。初回の審理に出廷したプラボウォ氏は、KPUが関与した組織的不正は「北朝鮮でもあり得ない」などと糾弾した。「違憲」とした選挙を憲法裁に持ち込む矛盾が生じたにもかかわらず、自身の勝利を法廷で一方的に主張することに終始した。
 憲法裁の審査結果に対し、カラ次期副大統領は「憲法裁が独立し専門的であることを示した。明日からは一丸となれる」、ジョコウィ次期大統領は「プラボウォ氏との間にはそもそも何も問題はないため、和解の必要はない」と話した。 (吉田拓史)

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