日本のコミックを売り込め インドネシア市場に 出版社が熱い視線

 「ナルト」「コナン」「ワンピース」。今インドネシアで大人気の日本発コミック(漫画単行本)だ。日本の新刊はすぐインドネシア国内の書店店頭に並ぶ。少子化が進み漫画市場が縮んでいく日本。出版社はインドネシアに熱い視線を送っている。「クールジャパン」の代名詞でもある漫画は将来の爆発的な大市場に続々と送り込まれている。送り出す日本側と膨大な読者を抱えるインドネシアの現場を報告する。
 「NARUTO」大好き子供のハートをつかむ「NARUTO!」「これ読んだよ」。平日の午後3時、中央ジャカルタ・グランドインドネシアの中にある書店グラメディア。コミック棚が並ぶ一角に中学3年生4人組がいた。「NARUTO(ナルト)はカッコいい」とアブリザル君(14)。1冊1万8500ルピアだが全65巻持っているという。「NARUTO―ナルト―」は「少年ジャンプ」(集英社)で現在も連載中の人気漫画。「ONE PIECE(ワンピース)」と並ぶ同誌の看板作品だ。落ちこぼれの忍者、うずまきナルトが仲間と力を合わせて数々の試練を乗り越え成長していくストーリー。日本国内に増して海外での人気がとても高く、30カ国以上で翻訳出版されている。「読んでてわくわくする」とナルシワントさん(14)も言う。インドネシアではTVアニメ放送もされた。
 「ウチのロングセラーです。とてもよく売れる」と話すのは同店コミック担当のハリーさん(28)。「主人公が忍者というのがおもしろい。仲間と頑張るストーリーとアクションシーンが人気なのでは」。同店はインドネシア最大手の出版企業グループ、コンパス・グラメディア傘下で書店規模では国内でも最大規模だ。その店内で販売するコミックのうち8割が日本の翻訳もの。レジ前の目立つ場所に平台が置かれ新作がずらりと並ぶ光景は日本と同じ。その全てが日本コミックだ。旧作は漫画家ごとに棚に置かれ、立ち読みする若い客の姿が多い。7月の売れ行きトップ3は、1位「CONAN」78巻(日本連載名は名探偵コナン、少年サンデー)、2位「KungFu Boy」15巻(同鉄拳チンミ、月刊少年マガジン)、3位「ONE PIECE」74巻。「コナン」は今月だけで116冊売れた(17日現在)。
 インドネシア国内コミックは幼児書コーナーに棚がある。いずれも漫画というよりも絵本に近い。年齢が上向けのものを探すと「Mahabharata」(マハバーラタ)8巻が売れているという。3万ルピア。現在TVドラマで人気があり、そのコミック化だ。開いてみると絵柄は漫画というよりも、アメリカンコミックのような体裁でコマ割りが大きく文字が多い。歴史を題材にした内容は大人向けだ。少年少女が気軽に楽しめる雰囲気ではない。

日本国内の退潮に 危機感
 「日本の漫画の質と量は世界一です」。日本の出版業界の専門紙、文化通信の星野渉編集長は話す。毎週漫画雑誌が発売され、連載がまとまればコミックとして店頭に並ぶ。各出版社は売れる書き手を常に探し、育てていく独自のシステムを作り上げた。爆発的なヒットを生む作品も多い。4月発売の「ONE PIECE」は初版400万部を超えた。他にも近年「進撃の巨人」「黒子のバスケ」など大ヒット作が続いている。
 しかし業界全体の状況は予断を許さない。日本のコミック市場の販売額は2231億円(2013年)でここ3年大きな変化はないが、漫画雑誌の販売額は1438億円(同)で11年1650億円、12年1564億円から下降している。コミック販売の元となる雑誌の売上減は今後も続くと予想される。読者ターゲットとなる若年層の興味がスマートフォンに移り雑誌離れが進み、少子高齢化という日本社会の構造的な問題も抱えている。市場が縮む日本から海外へ各出版社は目を向けていった。
 80年代米国に進出、「ドラゴンボール」「セーラームーン」などのTVアニメ放送が開始され、翻訳コミックの販売が始まる。続いてフランスへ。しかし「10年くらい前から現地でのコミック人気に陰りが見えてきた。日本と同じスピードで新作が翻訳され売られたが、そのスピードに読者がついてこれなくなったのでは」と出版科学研究所は分析する。欧米市場が成熟し落ち着いてきた。次に目を向けたのは中国だった。

若年人口多い インドネシアを狙え
 韓国、台湾は既に市場として確立していた。巨大な人口を抱える中国だが政府の出版規制が厳しく、漫画の参入が難しかった。そしてコンテンツの行く先としてタイ、シンガポール、そしてインドネシアが選ばれた。その理由として、「アニメ放送で既に日本漫画に対してなじみが深い。特にインドネシアは親日国であり、人口が多い。読者である10、20代の人口ボリュームが高いのは見逃せない」(出版科学研究所)。
 日本の出版社は90年代からエージェントを介するなどしてインドネシア国内の出版社と翻訳出版契約を結んでいる。現在「心霊探偵八雲」「となりの関くん」などのヒット作を販売するKADOKAWAはインドネシアでの売上は「12年度から13年度で約3倍の伸び」(海外出版営業部)という。同社は日本国内で男子向けライトノベル市場で8割のシェアを占めており、今後「コミックだけでなくライトノベルもライセンス許諾していきたい」としている
 また講談社も90年代半ばからインドネシアでライセンス出版を手掛け、「マガジン系の代表作を始め日本の話題作が人気です。昨年出版された『セーラームーン新装版』も根強い人気です」(国際ライツ事業部)とする。同社の版権別輸出国割合の内コミック版権ではフランス、北米、韓国、台湾が上位でインドネシアは9番目で全体の3・4%(12年資料)だ。
 翻訳出版に際しては作品によって違うが一般的に契約時にアドバンス(前払い印税)をまず支払い、発売後に売上に応じた印税として約7%が支払われると言われている。「版権ビジネスは各社にとってばかにならない売上となっています。再利用なのでコストがかからない。但し、出版する現地でアニメ放送が終わると市場が小さくなる傾向がある」と星野文化通信編集長は分析する。今後もインドネシア市場で日本コミックを売り伸ばすためにも新たな戦略が必要だ。(阿部敬一、写真も)

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