海賊対策や救難で活躍 日本供与の巡視艇第1号 海保専門家西分氏が報告
東南アジア諸国との海上安全保障で連携強化に意欲をみせる安倍首相はフィリピンとベトナムへの巡視船提供を表明している。これに先立つ海外への巡視船供与第1号として、インドネシアには2008年に巡視艇3隻が引き渡された。海上保安庁から国際協力機構(JICA)を通じてインドネシア運輸省海運総局に派遣されている西分竜二専門家の寄稿で、知られることの少ない3隻の活動状況を紹介する。
日本経済の生命線といわれるマラッカ・シンガポール海峡(マシ海峡)は、インドネシアとマレーシア、シンガポールに囲まれた世界屈指の船舶交通の要所である。日本は1968年から、沿岸3カ国と協力して海域の水路測量や航路標識の整備事業を続けている。2000年のアランドラレインボー号事件や05年の韋駄天号事件と日本関係船舶の海賊被害が相次いだことを受け、06年に日本政府は巡視艇3隻の無償供与を決定。08年に実際に供与した。
巡視艇は98トンで定員12人、30ノット以上の速度で航行できる。それぞれ「タカ」「ハヤブサ」「アニス・マドゥ 」と両国の鳥の名前が付けられた。
供与直後は「性能を十分に発揮する運航ができるか」「メンテナンスはできるか」といった数々の不安があった。同型船の船長経験がある海上保安官を派遣したJICAによる運用研修や製造業者によるアフターケアが功を奏し、7年経った今でも、船体・エンジン・各種機器の状態も良好に維持されており、マシ海峡での任務を今も継続している。
燃料が確保されるかという不安もあったが、優先的に供給を受けている。速度やレーダー計器等の使い勝手の良さ、居住性などが現場でも好評だ。
現在、3隻はインドネシア海上警察が保有する巡視艇の中で、最も有能な船として重宝されており、北スマトラ州ブラワン、リアウ州ドゥマイ、リアウ諸島州バタムの3カ所に主に配備され、3カ月交代でローテーションしている。
今年3月のマレーシア航空機の行方不明時には、1隻がアチェを拠点に海峡での捜索に参加したほか、11年にはバタムでタンカーを襲った海賊を逮捕した実績もある。船体には日本の旗が刻まれたプレートが光っている。
にしぶん・りゅうじ 第七管区海上保安本部での巡視船勤務や石垣海上保安部警備救難課長を経て、JICA専門家としてインドネシアに派遣された2005年〜08年の間、巡視艇供与事業などに取り組む。12年から2度目の赴任。同国の海上保安分野の能力強化支援にあたっている。