【テーマ2014選挙】(3)政権問う、民主主義の試金石 宗教問題

 国内外の報道陣を前に、17歳の少年ムハイミン君は頭を垂れていた。浴びせられる質問は耳に入らず、暴徒に殺された父との思い出が走馬灯のように浮かぶ。昨年8月26日、東ジャワ州`聞こえる午前8時ごろ、イスラム・シーア派の村は炎に包まれた。
 島で多数を占めるスンニ派の千人が村を襲い、ムハイミン君の父ハママさん(当時50歳)が犠牲になった。事件から5日後の記者会見。それでもムハイミン君は経緯をぽつぽつと話した。寄宿学校に向かおうとしたところ、スンニ派の信者が制止。騒ぎを聞き駆け付けたハママさんは口論の末、信者に刺殺されたという。

■差別・襲撃が増加
 民主化以降、それまでスハルト独裁政権に抑えられてきた強硬派団体の活動は活発化した。異端とされたイスラム少数派は襲われ、キリスト教徒は教会の閉鎖を余儀なくされる。少数派への差別・襲撃は増加の一途で、人権団体「スタラ・インスティテュート」によると、2010年に216件だった礼拝所襲撃などは、11年244件、12年264件と増え、昨年は330件に達した。
 何のための民主化だったのか。イスラム穏健派の学術団体「宗教間対話・平和のためのアブドゥルラフマン・ワヒド・センター」のアフマッド・スアイディ代表は「民主主義が言論の自由を保障する以上、少数派排斥を唱える団体を批判するのは筋違い」との考えを示す一方、「政府が暴力団体を放置せず、少数派保護の姿勢を鮮明にするべき」と指摘する。さらに、汚職などでイスラム政党が弱体化し、イスラム強硬派団体が国民の不満や要望を吸い上げていると警鐘を鳴らす。

■宗教省、改宗迫る
 ユドヨノ政権は1度も襲撃側の団体を非難しないばかりか、少数派の保護を呼び掛ける姿勢さえ見せない。3人がなくなった2011年のアフマディヤ信者虐殺はもちろん、モスクが壊されるなど器物破損の事件でも然りである。 
 政権内ではむしろ、少数派に改宗を迫ろうとする動きがある。ムハイミン君の父が殺されたマドゥラ島の事件で、宗教省は島外で避難生活を続けるシーア派帰還のための特別対策班を設置。同班は当初、問題解決を目指すかのように見えた。だが、実際には宗教省の担当者は「シーア派をイスラムの本流であるスンニ派に戻す必要がある」と平然と改宗を提案した。特別対策班は島で多数を占めるスンニ派の要望に沿って「宗教教育」の名目で改宗させようとしていた。
 同省はアフマディヤ信者に対しても同じことをしてきた。イスラム政党・開発統一党(PPP)の党首であるスルヤダルマ・アリ宗教相は選挙を見据え、マドゥラ島のシーア派襲撃問題でも、PPPの地盤である同島のスンニ派の求めに応じたとみられる。総選挙では国会議員候補にイスラム強硬派団体の報道官を擁立し、8月にはイスラム擁護戦線(FPI)の総会に出席、強硬派との蜜月を際立たせた。

■少数派はいま
 宗教少数派は今、結束し交流サイト・フェイスブックや写真展で支持を呼び掛けている。イスラム強硬派の圧力を受けた自治体に教会建設地を閉鎖されたキリスト教徒は日曜、ジャカルタの大統領宮殿前で抗議デモを続ける。だが、支持する世論は高まらず、取り上げるメディアも少ない。
 人権団体「多様性のための報道連盟」のタントウィ・アンワリ氏は、そもそも国民の間に基本的な人権を守らなければならないという意識が根付いていないと慨嘆し、「少数派の人間が殺されても、その被害者に思いを馳せる人はいない」と言い切るのである。宗教は民主主義の試金石であろう。ならば民主主義の強度が問われている。(上松亮介、写真も)

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