「中所得国の罠」回避へ 続くルピア苦難 脆弱経済を反映 米緩和縮小決定も
5月からインドネシア経済を揺らしてきた通貨安が再び進行している。米国の金融緩和縮小が18日(現地時間)までに決定される可能性が指摘されているためだ。ルピア安は、外国投資頼みの脆弱な経済構造を反映。懸念される「中所得国の罠」回避のため、構造改革の正念場を迎えている。
ブルームバーグによると、11月にルピアは対ドルで4年8カ月ぶりに1万2000ルピアをつけた。米国経済の回復が各統計から鮮明なことに加え、予算をめぐる混乱が収束。これらの材料で、各調査では専門家の3分の1ほどが18日までの米連邦公開市場委員会(FOMC)で緩和に踏み切ると予想している。
大規模な金融緩和により米国から高い利回りを求めて新興国に入っていた資金が緩和縮小観測で逆流し、各通貨でドル高が進んだ。ルピアは依然として下落が続く。
今年半ばに1ドル1万ルピアを超えたが、さらに20%下がった。5月の緩和縮小示唆の「犠牲者」筆頭だったインドやブラジルが回復傾向にあるのとは対照的だ。
インドネシア政府は為替介入や急速な利上げ、燃料補助金削減、緊急経済対策など手は打った。だが貿易赤字や財政赤字、脆弱なインフラなどを理由とした売りを食い止めることはできなかった。結果として、外資への高い依存と信用の低さを露呈することになった。
■改革待ったなし
ハティブ・バスリ蔵相は先週、「残念ながら、インドネシアは『中所得国の罠』にはまる危険性がある」と現在の経済構造に強い危機感をあらわにした。
インドネシアは近年目覚ましい経済成長を示し、1人当たり国内総生産(GDP)は3592ドル(2012年)で「中所得国」に位置するところまで来た。
ただ人件費はそれ以上のスピードで急騰。ジャカルタ特別州の最低賃金は2年で60%上がり、工業団地が集積する西ジャワ州は来年の最賃は22%上昇の244万ルピアとジャカルタを上回った。
すでに別の東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国や中国などと比べても人件費の競争力は落ちている。ユドヨノ大統領も「低賃金の時代は終わった」と安価な労働力を魅力とする投資先からの脱皮を宣言している。
ただ旺盛な消費分を自国で生産する体制が整っていない。それが貿易収支悪化とルピア安に拍車をかけている。バスリ蔵相は「ブラジルや南アフリカが中所得国から抜け出せずにいるのは資源と低賃金労働に依存しているからだ」と「罠」回避のためには産業育成が必要だとの認識をあらためて示した。
育成のため、政府は今年、部品の現地調達率を規定した低燃費・低価格車への優遇税制「低価格グリーンカープログラム(LCGC)」を開始。来年からは国内精錬所の育成のため未加工鉱石の輸出禁止を始める。ただ自動車をはじめ、どの産業も外資頼り。鉱石の精錬体制も整っていないにもかかわらず、禁輸を断行すれば逆に貿易収支を悪化させかねない。
ハティブ蔵相は「革新分野や技術分野への支援が必要だ」と話すが、有効な手立てを打ち出せていない。燃料値上げ後も消費増で補助金支出は減らず、産業育成へ振り向ける予算が十分でないとの指摘もある。
シンガポール・バークレイズ銀行のフェルナンデス常務は「市場はインドネシア経済の不安定化を感知すれば罰を与えることになる」と述べ、待ったなしの改革を求めた。(堀之内健史)
◇中所得国の罠
天然資源の輸出や低賃金の労働力をてこに中所得国まで成長した国で人件費が上昇し、低所得国に追い上げられる一方、技術では先進国に追いつかず停滞すること。抜け出すのは困難でインフラ整備や技術力向上が不可欠とされる。アジアで中所得国から高所得国になれたのはITや製造業、金融で躍進した韓国と台湾、シンガポール、香港のみ。