共産党シンパ虐殺に迫る ネットで無料公開へ 映画「アクト・オブ・キリング」
インドネシア共産党(PKI)系将校のクーデター未遂とされる1965年の「9.30事件」を描いたドキュメンタリー映画「アクト・オブ・キリング(インドネシア語題はジャガル)」が事件から48年を迎える30日から、インターネット上で無料公開される。米国人監督やインドネシア人スタッフなどが参加した作品で、今年のベルリン国際映画祭で入賞した。虐殺の加害者の証言や虐殺の再現シーンを中心に据え、インドネシア現代史の中に葬られた事件の真相をえぐり出そうと試みた話題作だ。
容共路線のスカルノ初代大統領が失脚し、陸軍少将だったスハルト元大統領が実権を掌握する激動期の65〜66年の2年間で、スマトラ島、ジャワ島、バリ島を中心に全国各地で約50万〜200万人にのぼる市民が共産党シンパとみなされ、虐殺されたとされる。
米国出身のジョシュア・オッペンハイマー監督(38)は、北スマトラ州メダンで虐殺に関与したという人々に会い、ドキュメンタリー制作を進めるうちに「自らの犯した罪を自慢げに語る殺害の実行者たちを映画の中心に据えることを決めた」と話す。
予告編では、メダンで絶大な勢力を持つ自警団「プムダ・パンチャシラ」の古参メンバーで元加害者の証言や虐殺の再現シーンを中心に据え、残虐性を強調している。
ネットで無料公開を決めたのは「この映画がこれまで話せなかった過去の問題を話し合うきっかけとなってほしい。直視するのがつらい真実に思いをはせ、言葉にする勇気を与えるのが芸術の力だ」としている。
■真相は闇の中
本作は米国で12年8月に初公開され、その後カナダ・トロント国際映画祭などで上映された。インドネシア国内では、配給会社を通じてインドネシア映画検閲局(LSF)の上映許可を得て12年11月に初公開。国内100以上の都市で上映されたが、治安上の理由から、その多くが招待客対象の小規模なものだった。
国内の人権団体などからは一定の評価を受けた。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチのアンドレアス・ハルソノ・インドネシア代表は「当時何が起きたかを理解する助けとなる」と話す。一方、虐殺の実行者に焦点を当て、事件の全体像が見えないとの批判もある。
9.30事件で失脚したスカルノ初代大統領に代わり、権力の座についたスハルト元大統領は、国家の統一を守るため、共産党員の粛清が必要だったとの見解を国民に広めた。スハルト政権が崩壊した今でも、虐殺を指揮した国軍の組織的関与や虐殺の実態などの真相は謎に包まれている。
国家人権委員会は08年から、虐殺の目撃者約340人に聞き取り調査を実施し、スハルト氏を最高責任者とする組織的な人権侵害とする報告書を12年7月に発表。真相究明を訴えたが、最高検察庁は同年11月、証拠不十分として捜査要求を棄却した。
本作は今年2月のベルリン国際映画祭パノラマ部門で審査員賞を受賞。日本では10月、山形国際ドキュメンタリー映画祭で初公開される。インターナショナル・コンペティション部門で、117カ国・地域の1153の応募の中からファイナリスト15作品の中に選ばれており、10月10日〜17日まで「殺人という行為」という邦題で上映される。
インドネシア国内からのアクセスに限り、ウェブサイト(www.actofkilling.com)で無料ダウンロードできる。