路上の味、忘れがたし  州の揺さぶりに抵抗続く タナアバンの露天商撤去

 「露天商300人以上が移転先の州営市場ブロックGの入居登録を終えた」。中央ジャカルタ・タナアバンの露店撤去をめぐる問題で、ジョコウィ知事は29日、反発する露天商に揺さぶりをかけた。
 ジャカルタ特別州は中央ジャカルタ・タナアバンの露店撤去をレバラン(断食月明け大祭)までと宣告。露天商に動揺が走った。
 州は露天商の数を700程度としているが、実際は千を優に超えるとみられる。ブロックGの空き店舗は1067戸。最初の6カ月は賃料無料というインセンティブがつく。露天商は移転か、撤去かどちらかを選ばなくてはならない。
 だが、露天商は路上での商売にこだわる。移転先はインドネシア人が嫌う3、4階。タナアバンの端で千戸以上空きがあるほど客足のない場所だ。店舗は2畳ほどの狭さで、露天商は「子羊」とばかにする。
 強固な姿勢を貫くアホック副知事との対立も深まる。果物売りのビトゥンさん(35)は「ブロックGはおんぼろだ。なにせ『刑務所』だからな」と大笑いする。「露天商は法律違反したら罰金を払うか刑務所に行けばいい」との発言が一人歩きし、副知事の出自の華人が攻撃の対象になった。
 反対派の頼みの綱は「ブタウィ(ジャカルタ土着の民族)の大立物」ルルン・ルンガナ州議会議員だ。廃品業者から身を立て、タナアバンのブタウィ系の地回りを率いると言われる。タナアバンに影響力の強い開発統一党(PPP)から政界進出した。ルルン議員は30日に12団体を引き連れて州庁舎前でデモを決行。「アホックがブタウィを率いることは許さない」とアホック副知事の出自を暗に攻撃した。露天商にはブタウィであることが必須であるかのような雰囲気が漂い、華人に見える記者も日本人と知られるまで歓迎されない。
 圧力が強まる中で、移転を決めた者もいる。運動服の露天商のジュナイディさんもその1人だ。「あの橋がつながれば客足が期待できる」。斜め向かいのブロックFとの連絡橋の建設が、長い中断期間を経て、再開する見通しという。ブロックGの足下はしばしば冠水し、入り口もまた露天商で塞がるため、客足が期待できず、橋が鍵となるのだ。同じく入居を決めたイスラム服の露天商レリーさん(40)は「知事が市場の隣の売春地帯を排除しないと女性客は来ない」と注文を付ける。
 過去2代の知事もブロックGへの強制移転を実施した。だが、3、4階から皆、路上に「降りていく」という。みかん売りのマンリリさん(40)は「3カ月で商売ができないことが分かり、引き返してきた」と語る。ブロックGが建設された85年から2階に入居し、親子2代で服を売る商店主も「路上の方がみかじめ料などで費用がかかり、場所をめぐるいさかいもある。だが、客足が断然違う。また下に降りていくだろう」と予見した。
 ペチ売りのジョイさん(51)は取り締まりをする警備隊が働く昼間は眠り、夜間に商売しようかと考える。「路上じゃないと商売は成功しないよ」(吉田拓史、写真も)

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