【揺れる民主化・2部政治】(1)地方分権 利権の争奪戦が激化 

 内務省は上位法令との矛盾を理由に、この10年間で全国の州や県、市に条例約1900本の廃止を勧告した。ほとんどは地方税に関する条例だ。多くが国の規定を超えて税率を決めていた。ユドヨノ大統領は昨年8月の国家演説で「苦情の多くは中央ではなく地方レベルから寄せられている」と指摘。不透明で地方行政の運営が経済発展に悪影響を及ぼしかねない現状を警戒した。
 スハルト政権崩壊後、急進的な地方分権化に舵を切り、憲法改正で「最大限の広範な自治」を保障した。国土開発を一手に担った国家開発計画庁(バペナス)の権限は縮小され、地方が独自に計画を立案できるようになった。
 国家予算の3割は地方に向けられるとはいえ、業者からロイヤリティーが落ちる天然資源の豊富な地域は別として、多くの自治体が開発予算の確保に苦労している。権限を持てば「カネ」に目が向くのは自然の成り行きだ。手っ取り早く収入を上げようと、税率の引き上げや携帯電話の中継基地への課税など、こぞって条例制定を進める結果になった。
 地方首長が退役軍人の天下りで占め、中央の代理人程度の意味合いしか持たなかったスハルト時代と異なり、公選で生まれた首長は「正当性」を持つ。現行自治法でも県・市の上位に州を位置づけ、州知事は県・市を監督するとされるが、人事も自由になった。地縁、血縁を重視し、経験の乏しい人材が法務幹部になるなど適材適所の乱れが、違法条例乱立の一因になっているとの指摘もある。
 分権のスローガンの下、自分たちの行政府を欲する動きは全国で加速した。99年に26だった州の数は34に、県と市は約200から3倍近くまで急増した。
 自治体再編に伴う利権争奪は住民を巻き込み、流血の事態につながる場合もある。
 南スマトラ州ムシ・ラワス県北東部では先月末、「北ムシ・ラワス県」の設置を求める住民500人が30時間にわたり幹線道路を封鎖。治安部隊との衝突で、住民4人が死亡した。同地区の東には天然ガスの豊富な地域が広がる。住民は利益の還流を目指し、隣接県の一部を併合して新県設置を主張。国会は近く要求を承認する見通しだ。
 分離すれば身近な行政が生まれるかといえば、そうでもない。内務省は04年までに発足した自治体205のうち57で、分離前より住民サービスや公共福祉が悪化したと判定した。中央では効率が悪化した分権を見直し、再集権化を模索する議論も進む。今後、中央による揺り戻しの圧力と地方との間で論争に発展する可能性もある。
 明るい兆しもある。昨年、ジャカルタ特別州知事に就任したジョコウィ知事は住民との対話を政策に反映させる姿勢を強調し、話題を呼んでいる。洪水対策でも上流にあたる西ジャワ州と連携し、広域連携の視点を持ち込むなど、新たな動きも始まっている。
 民主化で表出した一連のひずみを一過性の「成長痛」に押さえ、改革の果実を得られるか―。地方の時代を歩むインドネシアの模索が続いている。(道下健弘、つづく)

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