【性同一性障害を歩む】(下) ある活動家の挑戦 イ政府、高齢者施設を支援へ
トランスジェンダーのための高齢者養護施設は、トランスジェンダーの活動家マミ・ユリさん(52)=本名ユリアヌス・レットブラウト=が昨年11月、西ジャワ州デポック市の自宅を改築し開いた。身寄りがいない50〜80歳の8人にケーキ作りや散髪を教え、病人を介護する。
36歳、それまでしていた売春をやめ、美容院を開いた。同じトランスジェンダーの高齢者が孤独に暮らす姿に自分を重ねると不安だった。46歳、敬けんなキリスト教徒だが、敢えてイスラム系のアット・アヒリヤ大に入学、トランスジェンダーを認めないイスラムへの挑戦だった。07年にはそれまでの人権活動が評価され、独立機関・国家人権委員会の委員候補になった。
首都ジャカルタで売春する若いトランスジェンダーのほとんどが地方出身者。身分証明証を持っていない人が多く、身元保証人もいない。けがしたり、病気になったりしても医療は保障されない。
助けを求め施設を訪れる若い人には、売春をやめ手に職をつけるよう諭す。施設には「掟」がたくさんある。ムスリムが多い地域の住民に受け入れてもらうため、売春を思わせる夜間の外出、飲酒を厳禁する。
エイズ対策に取り組んできた社会省は、性産業で働くトランスジェンダーの間で広がるエイズを危険視する。保健省の統計で、ジャカルタのトランスジェンダーのエイズウイルス(HIV)感染率は1997〜2007年の10年間で6%から34%に上昇。マミさんは、売春する3人のうち1人が感染していると指摘する。
社会省はジャカルタを中心に、トランスジェンダーが性産業から抜け出すための職業訓練などを行ってきたが、当局の摘発を恐れ表に出てこないトランスジェンダーへの周知は難しいうえ、役所に対する不信感がある。
頭を痛めた同省が目に留めたのが、権利だけを声高に叫ぶのではく、足元から生活の改善を目指すマミさんだった。4月から養護施設で暮らすトランスジェンダーへの生活費支給を予定。同様の施設や団体があれば、支援を広げていく方針を打ち出している。マミさんは「いつか表舞台に立てる日が来る。私たちを取り巻く環境が少しずつ良くなれば」と期待する。(おわり、上松亮介、写真も)
◇関連記事
【性同一性障害を歩む】(上) これが私の生きる道 居場所探し、日つなぐ (2013年03月20日)
◇関連写真グラフ
【性同一性障害を歩む】 (2013年03月20日)