「日本は工夫力で勝負を」 島耕作がインドネシアに 作者の弘兼さんが訪問

 著名漫画家の弘兼憲史さん(65)がこのほど、代表作「島耕作」シリーズの取材などのため、ジャカルタを訪れ、じゃかるた新聞の会見に応じた。大手電機メーカーに勤める主人公・島耕作の交遊関係も含めた会社人生を通じ、日本の大企業を取り巻く状況をつぶさに描いてきた作品。社長に上り詰めた島が昨年末に業績不振で辞意を表明した時は、マスコミが報道するほどの騒ぎとなった。近く、連載中の週刊漫画誌「モーニング」で、インドネシアを舞台に10話ほど描く予定という弘兼さん。「日本の技術は基礎よりも応用。工夫する力がある。心配り、気配りができるような技術。国別特許件数も数年前の世界4位から最新では2位まで上昇しており、『知財立国』を目指すべきでしょう」と話し、マンガ、アニメ、アイドル文化などのコンテンツ産業に根ざした「娯楽立国」とともに、日本が世界が誇る武器として産業振興を図っていくべきと力を込めた。

 バリは観光で訪れたことがあるが、ジャカルタは今回が初めてという弘兼さん。「コーヒー屋でもインドネシア語で話しかけられ、訪問したインドネシア人家庭では『ジャワ人に似ている』と。私はどうも外見がこちらの方になじみが深いようで、非常に親近感を持ちました」と笑う。
 インドネシアを選んだのは、尖閣問題などで中国で日本ブランドの製品が売れなくなってくるという懸念が背景にある。「中国からの移転先は当然ASEAN(東南アジア諸国連合)ということになる。ベトナム、ミャンマー、タイなどもあるが、まずはインドネシアに行って取材したいと思いました」

■中国、インドが台頭
 作中で島が社長を務めるTECOT(テコット)のモデルとされているのはパナソニック。今回も現地工場を視察し、幹部から話を聞いた。三洋電機の買収発表前にマンガの中で買収劇のストーリーを描くなど、作品には日本の産業の行方に関する要素も盛り込まれている。「島耕作は、エンターテイメントと情報が半分ずつというスタンスのマンガ」と話す弘兼さんは、今後の電機業界の展望について、「5年後は分からないが、数学の能力が高い中国が来て、その後はインドがトップになるかもしれない。どの業界も栄枯盛衰でトップだったものは必ず滅びる。その中で日本は独自の技術、工夫する力で勝負していくべきという気がしています」と予見した。

■団塊の世代へエール
 1947年生まれで団塊の世代にあたる弘兼さん。島耕作は自身と同じように年を重ね、自分の考えや思いを作品にも投影させてきた。
 今年で65歳を迎え、本格的な定年となる団塊の世代がこれからどう生きていくべきか。弘兼さんは「やるべきことは、消費とボランティア、そしてどのように死に様を若い世代に見せるか、の三つ」と言う。
 消費は、日本の個人金融資産のかなりの部分を保有する高齢者がお金を使うべきとの考えに基づいたもの。経済を活性化させ、納税額も増やし、さらには旅行などの楽しいことで免疫細胞であるNK(ナチュラルキラー)細胞を活性化させることができ、健康にも良いという論理だ。
 ボランティアは、今の高齢者が60代で引退するのはもったいないが持ち出しでは続かないと、交通費や食費だけは出す有償ボランティアなどを想定。介護ロボットなどの助けを借りて介護従事者を増やし、参加者は、将来自身が介護を受けることもできるポイント制などにすることで、世界に先駆けた介護システムを実現できる可能性もあると説明した。
 そして「いかに死に様を見せるか」。「今の小学校低学年の子どもたちは10%以上が人間が死んだらリセットボタンを押せば生き返ると思っているというぐらい、人間が死ぬところをみない。僕は子どものころ、祖母が居間に寝かされ、顔に白い布がかけられていたのが、初めて死体をみたときだった」「死生観というものを子どもに教えるために、在宅死のすすめということを言っている。われわれの世代が80歳を超えるころには病棟も足りなくなる。生きる可能性があるより若い世代の人たちに譲るべき」と話す。
 「私の理想の死に方は、ペンを持っていたら『ああ、なんか調子悪いな、ガクッ』って言って、そのまま死ぬこと。ピンピンコロリ、PPK運動と言われていますが、それに参加したいですね」 (上野太郎、ノファ記者)

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