やりが舞う男たちの戦い 騎馬戦パソーラ スンバ島
強い日差しが照りつける草原で、やりが宙を舞う。馬に乗った男たちがさっそうと走りぬけ、手からやりがすべるように放たれていく。雄たけびを上げ、ぶつかり合い、時には地面に転がり落ちる。けが人や死人も出るこの戦いは、東ヌサトゥンガラ州スンバ島で毎年開かれる騎馬戦「パソーラ」。祖先を崇拝する地元の土着信仰「マラプ」の祭事で、祖先に感謝し豊作を願う。
パソーラは7、9、10日に西・南西スンバ県内の3カ所で開かれた。3日間のうち最大規模となった西スンバ県ランボヤ郡パティアラ・バワ村で10日に開かれたパソーラは、飾り立てられた馬に乗って戦う数百人の男たちを取り囲むように、約1万5千人の観客が集まった。
「行け!」「進め!」の声に混じって「殺せ!」の掛け声も聞こえる。やりが相手の体や馬に当たったりかすめたりするたびに、大きな歓声が上がる。1メートル以上ある木製のやりは30〜50メートルほど飛び、地面で折れるものもあった。
パソーラはマラプの司祭である「ラト」の指示によって進行する。早朝には海辺でイソメやゴカイの仲間とされる「ニャレ」を捕り、状態を確認する儀式が行われる。
ニャレはマラプ信仰では精霊とされており、太く生きが良いものがたくさん捕れると、その年の豊作が約束されるという。10日早朝には会場近くのケラウェイ海岸で、村々から集まった25人のラトが儀式を取り仕切った。
ランボヤ・バラット村から来たラトの1人で、郡長でもあるダクット・エダ・ボラさん(49)は「ニャレの状態はとても良く、ことしはどの作物も豊作だ。パソーラもうまくいくだろう」と話した。
パソーラでは山と海の二つのチームに分けられるが、勝敗は決めない。参加者は村で投げ方などの練習を重ねる。馬を持つ男性で希望者は誰でも参加できる。けがや死者が出ても、流れた血が大地を豊かにすると信じられているという。
過去に3回、パソーラで戦った経験を持つアンドレアス・スバニさん(22)。後頭部にやりが当たり、流血したこともある。「(パソーラ)は大事な習慣。勇敢であることを示すことができるから、勇気のある人は参加する。けがはよくあることで、怖くない」と話し、戦いの前に笑顔を見せた。
パソーラは毎年2月と3月に西・南西スンバ県で実施される。3月は8〜10日に4村で開かれる予定。(毛利春香、写真も)