【ジャカルタ知事選 三つどもえの戦い(下)】「礼儀正しい」教育者 イスラム保守層取り込みへ 前教育文化相 アニス氏

 「下の子を中学に入れるには、上の子の高校進学を諦めざるを得なかったんです」
 1月中旬、アニス・バスウェダン氏(47)は西ジャカルタ区クボンジュルックを訪れ、子どもの学費が支払えずに進学を断念したという主婦の話に耳を傾けていた。貧困問題に取り組む非営利団体が開いた集会で、自身の教育や保健政策を周知するためだ。
 「皆が授業を受けられるよう、進学を断念した人にも(奨学金制度の)KJP(教育カード)を適用させます」。住民に解決策を示す。その仕組みを解説し、時に復唱させる様子は、授業風景のようにも見える。
 38歳の若さでパラマディナ大学学長に抜てきされ、教育畑を渡り歩いてきた。非営利団体代表のトゥティ・フタガルンさん(48)は「アニスが知事になれば、教育の質が上がり、貧しい人の暮らしも良くなるのでは」と期待する。
 トゥティさんが「最も優れた取り組み」と評するのが、アニス氏が2010年に始めた教育支援運動「インドネシア・ムンガジャル」。若い教師を訓練し、遠隔地の小学校に1年間派遣。地方の教師不足対策として、注目を集めた。
 教育者アニス氏のもう一つの顔が、ジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)大統領の盟友かつブレーンだ。12年のジャカルタ特別州知事選と14年の大統領選で、共にジョコウィ陣営の広報を担当。政権発足と同時に教育文化相として初入閣した。
 しかし、昨年7月の内閣改造で突然退任。くしくもその2カ月後、アニス氏擁立を最後に決めたのは、ジョコウィ氏と大統領選で戦った、野党グリンドラ党のプラボウォ党首だった。
 弁が立つアニス氏は選挙区を巡り公約を周知。公開討論会での雄弁が目立ち、地元紙は「最も優秀」と報じた。選挙研究者のピピット・アプリアニさん(45)はアニス氏支持を公言。「礼儀正しく、話は簡潔ながらも力強いメッセージを感じる。(政策面では)アホックも良いが、アニスを選ぶことにした」。
 アニス氏には「礼儀正しい」という表現がしばしば使われる。歯に衣着せぬ発言が目立つ現職アホック氏(50)とは対照的だと見られてきた。
 選挙戦終盤の2月に入ったころ、アニス氏の戦略に変化があった。それまで選挙区訪問やテレビ出演で埋まっていた予定表に「内部会議」の文字が目立ち始めた。アニス氏は3日、「ネットワークに関する話し合いだ」と記者団に説明。組織票固めを図るとみられる。
 「まず第一に宗教」。中央ジャカルタ区カンプンバリに住むスラディさん(70)は、アニス氏が敬けんなムスリムであることを支持理由に挙げた。前回の知事選では、ムスリムでブタウィ人の現職ファウジ・ボウォ氏を推した。
 注目は、イスラム保守層の動きだ。アニス氏は1月、イスラム強硬派の顔で、反アホック運動を主導してきたイスラム擁護戦線(FPI)のハビブ・リジック・シハブ代表と面会し話題を呼んだ。保守派への接近は組織票の獲得につながるか、はたまた穏健派の支持離れなど、裏目に出る恐れもある。初めて挑む自身の選挙戦。終盤の戦略転換が支持拡大につながるかは不透明だ。(木村綾、写真も、おわり)

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