【貿易風】なぜデモは大規模化したのか

 金曜礼拝を名目とした12月2日の大規模なデモから約1カ月。その後も、大統領宮殿へのテロ未遂事件、ウラマー(イスラム法学者)評議会(MUI)による「非ムスリムの服装」を禁じる法的見解の発令、イスラム擁護戦線(FPI)などによるクリスマスの妨害など、「イスラムの急進化」や「不寛容の高まり」を示すような出来事に事欠かない。
 ただ、同様の出来事は過去にも多数あり、「不寛容の高まり」では、これほど大規模なデモがなぜ起こったかを説明できない。
 まず確認しておきたいのは、デモのような路上での政治行動は、政党をはじめとした公式な政治制度が十分に機能していないからこそ起こるということである。
 デモの主催者であるFPI他のイスラム急進派は、ごく少数であり、彼らのイスラム法の実定法化といった主張は既存政党を通しては実現されない。また、イスラム系政党も民主化後4度の総選挙を経て、むしろ低落傾向にある。
 イスラム系政党への支持が高くならないのは、世俗の政党もイスラム的シンボルを利用するようになり、さらに大連立によって埋没してしまったからだと著者は説明してきた。とくに近年宗教的な自覚を高めた都市部のムスリムにとっては、既存のイスラム系政党や主要団体は受け皿の役割を果たしていない。
 イスラム急進派は、ユドヨノ政権では大統領府への直接のロビー活動によって、要求をある程度実現していた。彼らはジョコウィ政権になってから、そうしたチャンネルを失った。急進派には、大統領周辺のリベラルな元活動家が権力へのアクセスを阻んでいるように映っている。
 こうした状況下で、アホック知事の発言が、急進派による示威行為の絶好の口実となった。しかし、大半のデモ参加者は急進派の訴えるイスラム法に基づく国家運営という目的を共有しているわけではない。
 12月2日のデモが多くの人々を動員できたのは、「政治行動」ではなく、平和的な「宗教行為」と規定したことが大きな理由であろう。
 今回のデモに多数が参加したとみられる新興の宗教団体マジェリス・ラスルッラーを例にとれば、ユドヨノもジョコウィもこれに接近して、支持を調達した。しかしアホックは州知事就任後、周辺環境への配慮を理由に、独立記念塔(モナス)広場を使ったこの団体の集会に許可を出さなかった。
 デモには、洪水対策や港湾開発のために移住を余儀なくなされた貧困層も多数参加したとみられている。
 アホックは、中間層にとって「合理的」な都市問題の解決と開発を推進した。その影で、排除されてきた人々の不満を、急進派がうまく吸い上げたといえるだろう。(見市建=岩手県立大学総合政策学部准教授)

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