高級住宅も取り壊し クルクット川の洪水対策 南ジャカルタ・クマン
8月末に南ジャカルタ区クマンで発生した大洪水の原因となった、クルクット川沿いの高級住宅などの強制撤去が本格化している。土地所有権や建設許可を取得している建築物もあるが、ジャカルタ特別州政府は土地を収用し川幅20メートルを確保、計721軒の撤去を断行する構えだ。
州政府は、現在3〜5メートルの川幅を20メートルに広げるため、川の両側10メートルもしくは片側20メートルの範囲に入る建物や壁などを取り壊す。国土局(BNP)や水道局が以前のクルクット川の地図と照合し、川幅を狭めている建築物を洗い出している。
南ジャカルタ区のイカ・メイラニ・ウンタリ広報課長によると、撤去対象は川沿いの区内南端から北端まで5郡16町にある高級住宅やレストラン、カフェ、ホテルなど。調査は続いており、今後も対象は増える見込み。
イカ課長は「土地所有権や建設許可を取得し合法な建物もあるので、(違法建築物の強制撤去と比べ)時間はかかる」と話す。元の建設予定範囲を超え、川沿いまで壁を建てている場所もあり、同区は12日、クマン・ラヤ通りにあるポップホテル・クマンの駐車場の壁を取り壊した。
住居であれば州内の公営住宅へ転居できる。合法的な建築物の居住者は補償金を請求できるが、金額などをめぐり区と住民の間の交渉は難航している。
クルクット川沿いのクマン・スラタン第12通りに40年以上暮らすサリさん(56)は、1カ月ほど前に1回目の退去勧告を受け取った。2018年に北ジャカルタ区マルンダの州営集合住宅に転居するよう言われたが「子どものことを考えると学校にも近く、ブロックMなどへのアクセスが良いので転居はしたくない。洪水対策には賛成だが、提示された1平方メートルあたり土地300万ルピアの補償金は安すぎる。土地と家を建てられるだけの補償をしてほしい」と涙を浮かべた。
クマンでは8月27日夜、地下駐車場の車が水没し、水位が最大2メートルに達する大洪水が発生。被害状況を見たアホック州知事は「川幅を広げる以外に選択肢はない」と語り、洪水対策を断行すると宣言した。知事はこれまで、東ジャカルタ区ジャティヌガラのカンプンプロや南ジャカルタ区テベットのブキット・ドゥリなどで違法住居を撤去してきた。
クマンに近いアンタサリ通りの警備会社に務めるレザ・セプティアルさん(29)は「洪水対策のためなら、もっと積極的に措置を講じてもいいと思う」と話す。ただ、高級住宅地や商業地区として知られる同地区の地権者に対し、相応の補償を行えるかどうかが問題だと語った。(中島昭浩、写真も)