死ぬには早すぎる コーヒー毒殺事件 専門家が新たな証言

 「シアン化ナトリウムで死亡した可能性は限りなく低い」。コーヒー毒殺事件の公判で5日、新たな証言が飛び出した。ワヤン・ミルナ・サリヒンさん(当時27)を毒殺したとして、殺人罪で起訴されたジェシカ・クマラ・ウォンソ被告(27)の第18回公判が中央ジャカルタ地裁で開かれた。今回から証人は弁護側が召喚。検視解剖2500件という経験を持つ法医学者専門家のベン・ベン・オンさんがオーストラリアから召喚された。

 オットー弁護士によると、ベンさんには事前に同事件に関する医師の検視結果や警察による捜査結果、カフェ「オリビエ」の監視カメラ(CCTV)の映像などを渡し、分析を依頼。ベンさんは「死因がシアン化ナトリウムを飲んだことである可能性は極めて低い」と結論付けた。
 ベンさんが主に注目したのは、ミルナさんが毒入りのコーヒーを飲んでから気を失うまでが3分間ほどであまりにも早いことと、体内に残されたシアン化ナトリウムの量が少ないことという2点。毒の専門家による一般的な論説や、過去にあったシアン化合物による毒殺事件と照らし合わせながら解説した。
 シアン化ナトリウムを口から飲んだ場合、吐き気やめまいなどの症状が出るまでには最低でも30分、通常は数時間はかかると説明。「毒の量が多ければ死に至るまでの時間も短くなるが、口から摂取した場合は胃に入った後、肝臓を通って心臓に送られ体中に毒が回る。時間がかかるため、飲んで5分にも満たないうちに気を失うのはシアン化ナトリウムにしてはあまりに早すぎる」と話した。
 また解剖結果でミルナさんの胃に1リットル当たり0.02ミリグラムのシアン化合物が含まれていたことついて、死後2日以上が過ぎた遺体など過去の事例を踏まえても、一般的には1リットル当たり少なくとも100ミリグラムが残っていたと説明。「微量のシアン化ナトリウムは、野菜やたばこの煙などにも含まれている。毒を飲んだのなら、胆のうや肝臓、尿にも含まれていないのはおかしい」と話した。
 さらに70分後に死亡したことについても早すぎると指摘。「何かほかに体に疾患がなかったかなど、シアン化ナトリウム以外の死因を検証する必要がある」と話した。
 ベンさんはオーストラリア国籍の法医学者で、クイーンズランド大学医学部の教授。医師としてこれまでに世界各国の病院での勤務や大学で学び、研究者や教授として働いてきた。また法医学専門科として2500件以上の検視解剖を実施してきた。国際裁判所の病理学学分野にも籍を置いていたことがあり、コソボと2002年のバリ島爆弾テロにも派遣された。バリではオーストラリア人の身元確認に注力したという。
 ジェシカ被告の母イメルダ・ウォンソさんも足を運び、傍聴席から見守った。公判が始まる直前、ハンカチで涙をぬぐう場面もあった。
 次回公判は7日の予定。(毛利春香、写真も)

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