旧日本兵6500人の眠る島 

 太平洋戦争の激戦地ビアク島(パプア州ビアク・ヌンフォル県)に米軍が上陸してから来月27日で70年。昨年11月、厚生労働省の遺骨帰還応急派遣団の一員として島を訪れた遺族の有馬咲子さん(73)=福岡県行橋市=が「見聞録」をまとめ、本紙に寄せた。
 「70年日本からのお迎えを待ち続け、私の前に現れたのだと思い座り込み、そっとそっと御骨を掘り上げた。70年そこにあったのだからなかなか持ち上げられなかった。何所のどなたなのだろう?父に会いませんでしたか?尋ねてみたい!!」(11月20日の記述から)。
 今も島には旧日本兵約6500人が眠る。直接兵士を知る肉親も70歳を超え、動けるうちに一人でも多くを帰還させたいとの思いを強めている。

■「兵隊さん、あと少しで日本に帰れますよ」
■ ビアク訪問の遺族が手記

 ビアク島派遣団は遺族の有馬咲子さんら民間6人と厚生労働省職員で構成され、昨年11月19日から27日までビアク島入りした。記者も同行した。有馬さんの見聞録を引用しながら、父の面影を探した訪問の様子を紹介する。

 島南西部のパライ海岸に「第二次世界大戦慰霊碑」が立つ。1945年5月27日の米軍上陸地点に近く、激しい戦闘の舞台となった。有馬さんは初日にこの地を訪問し、見聞録にこう綴った。
 「近くの崖が崩落し、中に兵隊さんがたくさん埋まっていると現地の人が話していた場所に、お酒、お米、線香、ろうそくをお供えして(同行の池辺)久子さんと般若心経を唱えた、父は戦死したとき31歳だったが、父は自分の親より年取った我が子をどのように見ているのだろうか?」(11月19日)
 父を亡くしたのは2歳の時。記憶にはないが、ビアクは唯一「父に会える場所」だ。滞在中、繰り返し父に思いを馳せた。
 「朝目覚める。父のことを考える。この地で仲間や友と何を考えどんなことを話していたのだろう?と。突然雨が振り出し、雨上がり太陽が顔を出す」(同20日)「行程の半分が過ぎた。のどかで静かな朝、小鳥の声と潮騒の音のみ。70年前の戦時中は?と考えると、洞窟に隠れ、食物を探して飢えをしのいでいたのだろうか」(同23日)「瞬く間に時間が過ぎ5時30分になった。夕日がとてもきれいで、父もこの夕日を眺めふるさとや我が子を懐かしく思っていただろう(同)
 厚生労働省によると、島の戦いで日本兵約1万1千人が死亡した。1956年から15回目の収集活動だが、帰還を果たしたのは戦没者の全体の4割に満たない。今回の活動では法医学者の鑑定を経て、282柱を日本兵のものと確認。遺骨は軍の司令部があった「西洞窟」近くの広場で荼毘に付した。
 「灯油をまいてあるので火は瞬く間に燃え上がり、骨は煙と炎に囲まれる。燃えてしまうまでの間、知っている軍歌や童謡を口ずさみ兵隊さんはこの歌を歌ったかな?と思う。久子さんと唱える般若心経も涙が流れ途切れがちになった。骨が冷えるのを待って骨と炭灰を区別して骨拾いをする。現地の周囲の人や子供がたくさん協力してくれる、ありがたい」(同25日)
 手伝ってくれた子供らにおもちゃやサッカーボールなどをプレゼントすると、早速サッカーをしていた。
「兵隊さんあと少しで日本に帰れますよ、お迎えまで70年かかりましたと声掛けした。充実した1日が終わった」(同)
 鑑定を終えた遺骨は現地追悼式の後、ジャカルタを経由して日本に向かった。ビアク島の空の玄関口モクメル空港は元々は日本軍が作ったものだ。有馬さんの父親も、設営に携わったと聞かされている。
「朝から土砂降りの雨が降り続く。日本に帰る兵隊さんと、島に残る兵隊さんとの別れの涙雨だろうか?」「雨の空港、滑走路を眺めて、父たちが作った滑走路はどんなだっただろう?水たまりはなかっただろうか」「離陸しビアク上空のジャングルの上、5600人の残った兵隊さんはどこに居るのだろうと思った。南太平洋の海の中にも大勢の兵隊さんが眠っているだろうと思い心経を念ずる」(同27日)
 「遺族が70歳を超え、なかなか遺骨収集に参加することが困難になっているが、遺児である私たちの世代が父親を迎えてあげなければ、何も知らぬ孫の世代に申し送ることは難しいと思う。活動できるあと10年でなんとか解決したい」(同29日)
 有馬さんは今後も、同島の訪問を続けたいと願っている。
(道下健弘、写真も)

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